09/29の日記
21:21
秋道 御克 ※セルフワンドロ
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ここではない、何処かに行きたい願望は誰にだってある。
それは自分も例外ではなく、だからと言って何処に行きたいかと問われれば、答えられないと克哉は思う。
そんな日々を過ごしてきた克哉の考えは、青天の霹靂のような出逢いで一変する。
どこにいても、何をしても帰りたいと思うのだ。
優しい恋人の元に。
車のクラクションの音で我に返った克哉は、慌てて横断歩道を渡り額の汗を手の甲で拭う。
考え事をしていたとは言え、横断歩道の途中で止まるなど、彼に怒られてしまうなと片手に持った荷物を抱え直す。
柑橘系の匂いが微かに香り、少しだけ克哉が口元を緩める。
(デザートも買ったし、準備は万端。あとは、ワインを取りに行くだけだから、そんなに時間は掛からないよな)
料理を作る時間も考慮して、恋人が帰って来る時間までまだ大丈夫だと克哉が考える。
けれども、何かを察知して早めの帰宅をするかも知れないなと思い直した。
毎年の事であるが、恋人である御堂の誕生日を本日に迎えて、サプライズを考えている克哉は早くお祝いをしたくて堪らないのだ。
昔だったら、こんな風には思わなかっただろう。
そもそも他人の誕生日を祝うと言う感覚が薄く、祝いの言葉を口にする事はあるが、自ら祝いの席を設けてやる事など無かった。
薄情な人間だと言われても仕方が無いのだが、それ位に他者との人間関係が希薄で、唯一の例外が本多だろうか。
ただ本多の場合は、自分から祝ってくれと訪れ飲みに誘ってくるから、克哉も笑いながら一緒に酒を飲んでいたりするのだが。
ワインを取りに向かう道すがら、色んな事を考えては、楽しげに克哉が歩を進めるのだが、不意に鳴り響くスマホのディスプレイに恋人の名を記載されており、残念と言って通話ボタンを押した。
今何処だ?の問いにワインを取りに向かっていると告げ、孝典さんは?と問い返す克哉。
もうすぐで家だと言われ、サプライズは失敗かと思い笑えば、どうかしたのか?と不思議そうな声が機械の向こう側から聞こえる。
「いいえ?早く帰りたいなと思っていた所です」
『それなら、ワインは明日にして早く帰って来い』
「ダメですよ。ワインは今日という日に必要な物なので」
『ワインが?』
「ふふっ。帰ったら話します」
どうやら自分の誕生日を忘れている彼に、待っていて下さいねと克哉が言って、秋の気配で彩る街道を駆けて行く。
「だから、オレが家に帰って来たら言って下さい」
『何を?』
「おかえりって!」
お誕生日おめでとうございます!
ネタが思い付かなく、短いのになりすいませんorz
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