ショート劇場
□飴色の月
1ページ/7ページ
ベッドから起き上がると同時に、佐伯からキャンディポットを手渡された。
瓶の中には色取り取りの、小さなキャンディが詰まっている。
「・・・これは?」
「見て分からないんですか?飴ですよ」
「いや・・・。それは分かるが、なんで私に渡すんだ?」
少し傾けると、カラコロと小さい球体が転がっていく。
「バレンタインのお返しです。食べる時は、俺に言って下さい」
「ん?君に言わないと、食べれないのか?」
徐にポットを取ると、佐伯が蓋を開けて一つ取り出す。
それを何を思ったか、自分の口に含み私の唇を奪う。
「ん・・・っ」
「・・・」
小さい塊が舌の上で転がり、甘い果実の味を伝える。
1分掛けて溶かし終えると、ようやく唇を離された。
「・・・っ。・・・貴様は、普通に食べさせる気はないのか?」
「これが、俺の普通だが?それに、御堂さんからの、お返しにもなるでしょう?」
ニヤッと悪戯を仕掛けた張本人が、私からのお返しを心配する。
大体、お互いにチョコを渡したんだから、お返しは相殺だろう。
それなのに佐伯は、わざわざキャンディポットを買い
私のお返しが佐伯にキスをする事を、勝手に決めるなんて・・・。
「貴様が言う事は、言語道断だ!」
「へぇ?それなら俺に、何をくれるんですか?」
「今すぐ、菓子でも何でも、買って来てやる!」
「それならKホテルのビターキャラメルで、ヨロシクお願いします」
商品指定までされ、腹立ちながらも買いに出掛けた。