ショート劇場

□俺の名前は何ですか?
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『本多!早く起きろよ』

『本多のバーカ』

『大好きだよ、本多』

気になる事が一つ。

「本多?今日お昼どうする?」

出掛けるかと克哉に聞かれ、座っているベッドを叩くと隣にチョコンと座る。

こういう時は可愛い。

「何?」

「あのな、何時になったら下の名前で呼んでくれるんだ?」

同棲し始めても、克哉は今だに俺を本多と呼ぶ。

「オレが本多って言うの嫌?」

小首を傾げて尋ねられ、頬を掻いて答える。

「嫌とかじゃなく・・・、そろそろ憲二って呼ばれたいかな?」

「・・・」

「試しに、言ってみてくれないか?」

俺のお願いに、克哉は唇を軽く舐めて唇を開く。

「・・・け、・・・け。・・・ダァーッ、無理!!無理、無理!恥ずかしいよー!」

真っ赤な顔で立ち上がり、頭を振るう。

「何が無理だよ?俺なんか、克哉って呼んでるのに」

「そもそも何で急に、下の名前で呼べなんて言うんだよ・・・」

情けない表情を寄越す克哉に、何と無くと言うと

「何と無くなら、絶対言わない!」

「ちょっと待て!それは言葉の綾で、呼んで欲しいに決まってるだろ?」

特別な存在になっても、よそよそしい名前呼び。

寂しいとか、そんな訳も無くもないが一番の理由は・・・。

『何?まさか、まだ本多呼びなの?』

『うっせー』

『俺なんか、太一って呼んで貰ってるのに、まだ本多呼びか〜』

『お前は、呼び捨てにするな!』

太一にニヤニヤと笑われ、馬鹿にされたなんて言えない。

「・・・本多。・・・本多・・・」

俺の前に向き直り見下ろすと、苗字を呼んで最後に

「毛虫」

「おまっ!毛虫って何だよ!俺の名前は憲二だ!」

「レンジ?」

「・・・もういい!」

上着を掴み玄関に向かうと、克哉が慌て俺の腕を捕まえる。

「克哉くん。何ですか?」

「ゴメン・・・。ふざけ過ぎた」

「それで?」

ここまで来れば、こっちのもんだ。

内心でほくそ笑み、克哉の返事を待つ。

「オレが出て行く」

「はぁ!?」

「夕方には戻るから」

待てよと叫んでも、上着を持った克哉は振り返らずに出て行く。

「マジかよ・・・」

閉まった扉に呟くと、痛い頭を掻いた。
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