ショート劇場
□求めた熱
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《鬼畜眼鏡Rの眼鏡×御堂のEnd3後》
『俺はどこにもいきません』
あの日、約束したはずの言葉が胸を過ぎる。
私の目の前に写る君は、私と愛を語りあった君じゃないと、ずっと考えていた。
誰もいないオフィスで私は彼の名前を呼んだ。
「御堂さん?」
声音、微笑み、仕種に以前と違う君がここにいる。
「君は誰だ?」
ようやく口に出来た言葉に語尾が少し掠れる。
「誰とは?」
穏やかに微笑む《克哉》。
けれど、これは私が愛した《克哉》じゃない。
「君は私と今まで共に歩んだ《佐伯克哉》ではない」
「何を言ってるんですか?《オレ》は《佐伯克哉》ですよ」
私の瞳には《佐伯克哉》という肉体を手にした得体の知れない人物でしかない。
どうしても以前の、あの温もりが感じられないから。
(佐伯。君は誰なんだ?)
「御堂さん?大丈夫ですか?」
「触るな!」
「!」
《佐伯克哉》の顔をした誰かの手を振り払い大声で叫んだ。
「君は私と約束をした《佐伯克哉》じゃない!」
「・・・」
「君は、どこにもいかないと言った!なのに私をまた置き去りにするのか!?」
「・・・御堂」
恥も外聞もなく懇願した。
「お願いだ。私の《佐伯》を返してくれ!」
「・・・」
けれど何も言わない《佐伯克哉》。
私が狂っているのか?
それとも世界が狂ったのか?
床に座り込むと、あの時の気持ちの呟きを漏らす。
「私は、君がいなくなるんじゃないかと、ずっと不安だった」
私の前に静かに《佐伯克哉》も座る。
「けれど君は約束してくれた。どこにもいかないと」
「・・・」
「それに、どれ程、救われたか君には分からない」
「・・・いいえ。分かりますよ」
そう言った《佐伯克哉》は悲しそうに微笑んだ。
「《オレ》も以前、貴方に救われた。そして眼鏡を掛けた《俺》も」
今は眼鏡が掛けられていない瞳で《佐伯克哉》が私を見詰める。
「本当は、どこにも行きたくなかった」
「君は・・・」
「《俺》を頼みます」
「・・・」
・・・・
「御堂部長。今まで、ありがとうございました」
MGNでの呼び方をした《佐伯克哉》はゆっくりと瞳を閉じると床に倒れる。
「克哉!」
床に激突する前に抱き留めたが意識が無く
「もしかして君は、最初に出会った君か?」
問い掛けても返事は無かった。