1ページ劇場
□伝える唇
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離さないでと君は泣き。
離れないでと君は泣く。
君はいつも笑顔で、本音を隠して
私がいない場所で泣く。
「君は、私が頼りないのか?」
時折、くだらない理由を付けて、自宅へと戻る克哉を黙って送り出している。
けれど心の中では、寂しさと苛立ちが募る。
ベランダで夜景を眺めながら呟くと、マンションの下に克哉が戻って来た。
もう戻って来ないじゃないか、私を嫌いになったんじゃないかと
変な不安に駆られる時も、本当はある。
「ただいま、御堂さん」
「お帰り・・・」
君が本音を隠して笑うなら、私も君に伝えない。
けれど・・・。
「御堂さん。・・・今日は、一緒に寝てもいいですか?」
「君が望むなら、いいぞ・・・」
君が素直に私に伝えたなら全てを受け入れて、この思いも伝えよう。
「御・・堂・・・さん」
「克哉・・・」
言葉を紡がなくても、唇を合わせれば心が伝わる。
君は、私を愛していると
私は、君を愛していると
今はこれで、我慢しながら。
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