1ページ劇場

□優しい人
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優しい優しい貴方。

その優しさを、オレは少しでも貴方に返したい。

「うわっ!」

ガシャンと手から滑り落ちた皿は、見事に床で割れてしまった。

「大丈夫か?」

ソファーに座っていた御堂さんが、音を聞き付けて台所にやってくる。

「すいません、御堂さん」

「気にしなくていい。それより、怪我はないか?」

破片を拾いながら、大丈夫ですと答えた。

「本当にドジですよね」

「・・・何かあったのか?」

「えっ?イタッ!」

御堂さんの言葉に動揺してしまい、破片で指先を切ってしまった。

赤い真紅の液体が、床にこぼれ落ちる。

「貸せ」

「あっ!?」

オレの傷付いた指先を口に含むと、舌先が指をなぞる。

(う〜、恥ずかしい)

「ちょっと待ってろ」

御堂さんは指から口を離すと、救急箱を持ってきてくれる。

「すいません」

「いや・・・。気にするな」

消毒して絆創膏を貼ると、皿の破片を御堂さんが片付けてくれていた。

「すいません、御堂さん」

項垂れながら謝ると、厳しい顔でオレの顔を見詰める。

「君は謝る事しか、出来ないのか?」

「・・・」

迷惑ばかり掛けているオレは、謝る事しか出来ない。

御堂さんに優しくされても、何も返せない。

「克哉・・・」

「・・・はい」

そんな自分が嫌でしょうがない。

これなら眼鏡を貰う前より酷い。

「ありがとうと、微笑んでくれ」

「えっ?」

御堂さんを見ると先程とは変わって、穏やかな表情で頬を撫でてくれる。

「それだけで、私は嬉しい」

「ありがとうですか?」

「ああ。謝られるより、ずっといい」

オレは頬に添えられた手に、手を重ね微笑んだ。

「ありがとう御堂さん」

「どう致しまして」

そして御堂さんは、優しいキスをくれる。

それにオレは、優しく貴方に触れる。

優しい優しい貴方。

それに答えるように、オレはありがとうと微笑む。


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