1ページ劇場

□夢から覚めても
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暗い、くらい、クライ。

誰もいない部屋に、私は独り。

「佐伯?」

エコーが掛かったように、部屋に響き渡る。

「佐伯?」

辺りを見回しても、佐伯がいない。

「佐伯!!佐伯どこだ!?」

止めろ。私を置いてくな。私を捨てるな。

「佐伯!!」

暗闇が広がっていき、自身の姿も見えなくなっていく。

「佐伯・・・。私を捨てないでくれ・・・」

伸ばした腕に絡み付く闇。

身体に侵食する闇。

あの日と同じ暗闇。

「ハッ!!」

心臓が脈打つのが、確認しなくても全身に伝わる。

「・・・」

横を見ると、穏やかに寝静まっている佐伯がいた。

「ふぅ・・・」

安堵のため息と共に、不安感が胸を過ぎる。

夢だと認識しても、拭えない恐怖。

あの日、置き去りにされてから、私は弱くなった。

君の傍を、片時も離れたくない。

けれど、そんな事を私が言える訳もない。

ベットの端に腰掛けると、佐伯の声が聞こえた。

「どうしたんですか?」

振り向くと、佐伯は重い瞼を携えながら欠伸をする。

「起きたのか?」

「ああ」

軽く握られた手から、佐伯の温度が伝わる。

「・・・」

瞼を擦る佐伯の髪が揺れ、それに少し触れた。

佐伯の存在がここにある。

存在を確かめても、不安でしょうがない。

すると急に手を引っ張られ、佐伯の胸にポスッと倒れ込んだ。

「どうした?」

心配そうな声で聞かれ、悪夢を見たんだと答えた。

そして佐伯の安定した、心臓のリズムを聞いていると、睡魔が襲ってくる。

「佐伯・・・。君は・・・、ここにいるよな?」

微睡みに落ちながら呟くと、佐伯は何かを答えてくれる。

その答えは分からなかったが、腕に抱かれた御蔭で今度は二人の夢を見た。

『御堂・・・。俺は側にいるから』

『佐伯・・・』

「う〜ん・・・」

日が差し込み、朝を伝える。

寝ても覚めても、側にいる佐伯。

ガッチリと腕に抱かれ、嬉しさが込み上げる。

(君は、ここに居てくれる)

抱きしめ返したいが、取り合えず今は

「起きろ。佐伯」

隙間から手を出して、佐伯の頬をペシペシと叩いた。

「・・・。もう少しだけ」

「もう・・・。いい加減に起きろ!」

と、怒鳴ってはみたものの

(もう少しだけ、このままがいいな)

けれど佐伯は腕を離し、寝返りを打った。

「あっ・・・」

「んっ?どうした?」

離れた腕が、恋しいなんて言えない。

「いや。何でもない」

ベットの上に起き上がり、頭を振った。

本当に私は弱くなった。

君がこんなに、恋しくて愛しいなんて。

「朝ご飯にしましょう?」

見るとベットから下りた佐伯が、手を差し延べている。

「ああ」

その手を取ると、佐伯の顔が近付き耳元で囁かれた。

『今日の夜は、離しませんから』

「佐伯!」

怒る私を他所に、佐伯はニヤニヤ笑う。

「御堂。俺はお前を離さない」

「本当か?」

「疑うなら、今からしてもいいが」

繋いだ手の甲に、軽く口づけすると唇に近づく。

「君はバカだな・・・」

微笑んで唇を受けると、佐伯は心外だとばかりに深い口づけに変わる。

「どうせなら、御堂バカと言って下さい」

「それは、どういう意味だ?」

「御堂さんに溺れた、バカな男ですよ」

溺れてるのは、君だけじゃない。

私も君に溺れてる。

二人で快楽の海に沈んでも

二人なら楽園なんだ。

「それなら私は、佐伯バカか・・・」

バカでも案外悪くないなと、手を繋いだまま思った。


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