オペラ劇場

□リバースエッジ
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この気持ちを理解して欲しいとは言わない。

けれど受け止めて欲しいと思うのは、克哉さんが知らない誰かと逢うだけで発狂する程に心が軋んだから。

俺以外を瞳に写し、談笑し、触れ合う克哉さん。

触るな。目に写すな。克哉さんの名を口にするな。

「・・・」

「たい、ち?」

電池が切れた玩具の様に、克哉さんの上に覆い被さると俺を気遣う声が聞こえる。

嫉妬なんだ。克哉さんの周り全てに嫉妬してる。自分で気付いている。だから、どうか受け止めて欲しい。

「殺したい位に愛してる」

「・・・」

ポツリと呟いた言葉が、一番伝えたかった言葉。

だから俺を独りにしないで。どこにも行かないで。俺以外を愛さないで。

今、俺は情けない顔をしている筈。

克哉さんの胸に顔を埋め見えないようにすると、俺の髪に克哉さんの指先が触れる。

「だい、じょうぶだよ・・・」

埋められない差がある。

それは時間だったり、経験だったり。

克哉さんは精神的にも大人で、俺なんか足元にも及ばない。

だから、いつか上手くほの暗い感情と、折り合いを付けるから

それまでは、どうか深い海みたいに受け入れて欲しい。

「オレは・・・。たいちに、ころされ、・・・ない。・・・から」

克哉さんの冷たい指先が頬に当たり、俺の熱い瞼に置かれた。

その手を握ると、冷たい指先が絡まる。

「だから・・・、だい、じょ・・うぶ・・・」

飼い馴らした筈の感情は、いつも俺を喰らおうと様子を伺う。

けれど克哉さんは、それすらも愛してくれる。

「ゴメン、克哉さん・・・。本当に愛しているんだ」

「う、ん・・・」

「本当に、本気で克哉さんを愛してる」

「・・・うん。・・・ちゃんと、わかっ、てる・・・よ」

喰われた時も、愛で満たして。

それがなければ、俺は克哉さんを壊してしまう。

それがあれば、克哉さんの愛だけを喰らい続けるから。

だから無償の愛を、俺に与え続けて。

「オレも・・・、アイ、・・・シテル」

アア、ゴメンネ。コロシタイ、クライニ、アナタヲ、アイシテ。

彼の真っ白だった肌に、真紅の噛み傷が幾つも残される。

それは言葉を失くした獣が残した、愛の傷痕。


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