オペラ劇場

□共鳴(空虚な石)
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オレは《俺》であり《オレ》である。

俺は《オレ》であり《俺》である。

何かが、おかしい。

《オレ》と同時に《俺》が存在する事?

《俺》と同時に《オレ》が存在する事?

何が、おかしい?

《オレ》が《俺》を愛する事を。





五月雨の中を傘を差さずに歩むと髪も頬も色を無くし、ただ無情に身体を濡らしていく。

「佐伯・・・」

何度呼べば気が済む?

「ゴメン・・・。オレが悪かったから・・・。オレが悪いから・・・」

何度謝れば赦される?

「オレを・・・。置いて・・・、行かないで・・・」

冷たい雫に熱い雫が混ざり零れ落ちて、地面にある水を溢れさす。

何度も、何度も落ちて、水溜まりに波紋が広がる。

何が悪かったのですか?

《オレ》が《俺》を愛した事。

何が悪かったのですか?

《オレ》が《俺》の愛を疑った事。

『もういい。お前は《俺》が必要ないんだろ?』

ただ一言、言えばよかった。

『そうじゃない。お前が《オレ》を必要としてないから』

こんな言葉じゃなく。

『いい加減にしろ。この話し合いさえ、無駄だと分からないのか?』

どうか、やり直させて下さい。

今度は、ちゃんと伝えます。

『無駄って何だよ!!オレは真剣に・・・。しんけんに・・・』

『・・・。もう、止めろ・・・。お前は俺がいなくなれば、嫌な気をしなくて済むんだ』

待って、オレを置いて行かないで。

お前を愛してる。

そんな言葉を伝えれない唇なんて、役に立たない。

お前を引き止める事が出来ない両手なんて、役に立たない。

そんな両手で顔を抑え、熱い雫を手の平で感じた。
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