オペラ劇場

□共鳴(空虚な石)
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波紋が広がる。

1つの波紋に続き2つ3つ。

家を出た佐伯を追い掛けても、もう何処にも姿がない。

ハジマリは小さな柘榴。

オワリは大きな穴を残す。

心に空洞が出来、哀しみの涙で満たされていく。

佐伯への愛が涙で溺れて壊れてしまう。

返して下さい。

オレにアイツを。

助けて下さい。

自分の涙で溺れて呼吸ができない。

波紋が広がり続け、何時しか連なり何かと共鳴する。

「お前はバカか?」

「・・さ・・・え・き?」

「バカは風邪を引かないなんて真っ赤な嘘なんだぞ?」

雨に打たれた《オレ》に

同じく雨に打たれた《俺》が

濡れた前髪から雫が落ちるのも構わずに、手を差し出す。

「帰るぞ。このままだと二人して風邪を引く」

「ゆる・・し・て、くれ・・・る・・の、か?」

涙で掠れた声が俺に届くと、呆れた様な仕方がない様な表情に変わる。

「いつだって、お前の事は赦してる」

《オレ》と同じ存在と言う理由ではなく

《俺》の意思が確かに存在している。

「情けない顔をするな。ほらっ、泣いてないで帰るぞ」

《オレ》を愛して甘やかして優しくするのは、いつだって《俺》しかいない。

「ゴメン・・・。ゴメン・・・。愛してる・・・。ありがとう・・・。迎えに来てくれて・・・」

「・・・。仕方がないだろ。お前は俺が居ないとダメだからな」

そんな言葉を、いつかお前に返すよ。

お前もオレが居ないと寂しいだろ?

だけど今は冷たい雫の中で、熱い唇を交わしたい。


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