ショート劇場
□飴色の月
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「申し訳ありませんが、ビターキャラメルの方は予約販売のみとなっております」
頭が痛い問題に直面すると、コイツの全てが憎い。
「残念ですね?それで、俺のお返しどうします?」
「・・・。全部、知っていた癖に良く言うな・・・」
隣を歩く佐伯は、上機嫌に私のお返しを気にする。
「君は本気で、私からお返しが欲しいのか?」
困った様子を楽しんでいる様にも見えるので、尋ねてみたが普通に頷いた。
「ただ・・・。本当は、何でもいい・・・」
「・・・」
「菓子でも、物でも、思い出でも。ただ普通に貴方から、何かが欲しかっただけだ」
遠い瞳で街を眺める佐伯は、静かに何かを思い出している。
それは多分、遠い記憶。
別々の道で、互いの面影を捜していた時の記憶。
何か形が残れば、寂しくないと思ったのだろうか?
「・・・」
「仕方ない・・・。君に食べさせて貰うよ」
日毎に募る想い出。
「ただし、一日一回だ」
何度、君に酷い事をされても、結局は赦してしまう。
優しくされた想い出が、胸にあるからだが
(やはり私は、佐伯に甘いのだろうか?)
疑問に答えがないまま、あのキャンディが無くなるまで、キスの味が果実の味に染まる。
そして無くなれば、また煙草の匂いと味に変わるのだろう。
それまでは、甘い味を噛み締めて・・・。