お題劇場
□五月蝿い街
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あの冬の別れから、半年が経過した。
今は、御堂の事など話題にも上がらない位に、時間が過ぎていた。
「佐伯さん。書類、置いときますね」
MGNに異動してから仕事は忙しくなったが、段々と冷めゆく心に虚無感を感じる。
外は夏を感じさせる、熱気の渦。
去年は、そこを≪オレ≫が歩いて仕事をしていた。
「・・・。少し出てくる」
「はい。分かりました」
藤田に事付けると、鞄を持ち外に向かう。
唸る暑さに、車の排気音すら苛立ちを募らせる。
「・・・」
焼けつくアスファルト。
それに対して、冷たい心。
御堂が居なくなって、まだ半年。
もう、ではなく、まだ。
この五月蝿い街を捜せば、貴方に逢えますか?
(逢ったとしても、アイツは二度と俺の顔なんか見たくないか・・・)
自分で行なった行為を、今更になって後悔するなんて。
『馬鹿にするのも大概にしろ!』
まだ、忘れえぬ姿。
まだ、忘れえぬ声。
何時か消えるまで、この心に留まってくれ。
眼鏡を外し額の汗を拭うと、早く季節が移り変わり
思い出に重なる季節となり
貴方の姿を、より一層、思い出せる様にと願った。