オペラ劇場

□柊
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君の姿を見れば、息苦しさから解放される筈。

君の声を聞けば、醜い心が色を変えていく筈。

「紀次?大丈夫?」

「えっ?あ、ああ・・・。大丈夫」

レストランで食事をしていると、目の前に座る女性が俺を心配する。

社会人になり、煩わしいのから少しだけ解放された。

けれど、自分には何もない。

人並みに女性と付き合っても

人並みに仕事をこなしても

この息苦しさからは解放されない。

喉に棘が刺さったまま。

「・・・」

「私の話、聞いてるの?」

そんな話、聞いてる訳ないだろ。

鬱陶しい。消えろ。目障りだ。

「ごめん。もう一回、聞いていいかな?」

「次は、ちゃんと聞いてよ?」

消えろ。消えろ。消えろ。

この世界、すべて消えて無くなれ。

「今日、雪が降るんですって」

「・・・別れよう」

「えっ?」

「君の存在が煩わしい」

ガタンと驚いて席を立ち上がる女性。

酷いのは分かっている。

でも俺は何も要らない。

渇いた音が頬から聞こえ、女性が店を後にする。

俺には何も必要ない。

(・・・。ゴメン・・・)

求めなければ、救われますか?

この息苦しさから、解放されますか?

店の窓に、粉雪が舞い散る。

「・・・助けて」

この孤独から

この寂しさから

この世界から。

俺を救えるのは、たった一人。

その一人は、二度と逢えない人。

だから俺は一生、救われない。

春には桜が咲き

そして、また散る。

救われる日を夢見て

「克哉くん・・・」

何度も、何度も、君と別れた時の、舞い散る桜を夢に見る。


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