オペラ劇場
□Oasis
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声が聞こえた気がする。
その声は私に、最後の言葉を残す為に紡がれた声。
少しだけ震えていたのを、泣きそうな声だと感じていた。
「御堂さん・・・。書類の確認をお願いします」
「・・・。ああ・・・、すまない」
藤田に書類を手渡され、生返事をしながら確認する。
文字が頭に入らず、後で確認すると藤田に告げた。
佐伯が姿を消して半年。
彼は、また私を置いて居なくなった。
彼の家族に捜索願いを届けて貰ったが、私の元に戻ったのは彼の携帯だけ。
留守電に、私の声が残された携帯。
解約せずに、ずっと持ち歩いている。
彼のマンションも、そのまま契約している。
君の居場所があるのに、君は居ない。
「・・・」
全速力で走れば転んだ時、余計に傷を負ってしまう。
だから無意識の内に、力を抑えて走る事を覚える。
けれど私は、この恋に全力を注いでいた。
彼に一生を捧げる気持ちだと言えば、格好悪いと思い伝えれなかった。
それでも伝えればよかった。
こんなにも惨めで
こんなにも息苦しく
こんなにも傷痕が残るなら
せめて君にも傷を残したい。
私と同じ傷痕を。