オペラ劇場
□Oasis
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自宅のリビングの暗がりの中を、家の電話が赤いランプを点滅させていた。
それに気付き電気も付けずに、仕事鞄を床に置いて電話に手を添える。
留守電が入っているので、再生ボタンを押すと雑音が響く。
『・・・・・・』
「・・・」
30秒位で切れて、沈黙が部屋に広がる。
公衆電話から掛けられた電話に、動揺と期待が入り混じる。
「まさか・・・」
まさか君じゃないのか?
すると急に電話のベルが鳴り響き、驚きながら唾を飲み込んだ。
受話器に手を置き、鳴り響くベルに電話を取るべきか迷う。
ディスプレイには、公衆電話の表示。
同じ相手からの電話。
待ち焦がれた相手かも知れない。
違うかも知れない。
どちらにしても・・・。もう私は、誰にも傷付けられたくない。
「・・・。・・・もしもし」
『・・・・・・』
「・・・佐伯。・・・君に逢いたい」
けれど君に付けられた傷は、とても愛しい。
『・・・俺も。・・・。貴方に逢いたい・・・』
言葉にすれば、たやすく伝わるなら
どうして、もっと早く言えなかったのだろうか。
今も目覚めた朝に、愛しい傷痕が疼いている。
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