オペラ劇場

□誰かの願いが叶うころ
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「克哉さん、これは?」

服を体に合わせて見て貰おうとするが、克哉さんの携帯が邪魔な着信を知らせる。

「えぇ・・・。昨日も話しましたが・・・」

眼鏡を抑えて、電話相手に仕事の説明をする克哉さん。

「・・・」

僕の願いは、たった一つ。

二つ、三つ、四つ、五つ。

ワガママが増えていくばかり。

克哉さん、こっち向いて?

僕に笑って?

優しくして?

抱きしめて?

ずっと傍にいて?

「・・・」

ねぇ、克哉さん。

僕の願いを叶えて?

「悪いな、秋紀。仕事が入った」

「ううん。大丈夫だよ?一人で選べるから」

克哉さんはポンッと僕の頭を撫でて、優しく微笑んでくれる。

「卒業式には出席してやるから、楽しみにしてろよ?」

「うん!!」

克哉さん。克哉さん。

僕は克哉さんが大好き。

この願いで誰かが傷付くとしても

誰かの願いで僕が傷付いたとしても

克哉さん・・・

克哉さんが傍に居てくれる限り

僕は克哉さんに笑顔を贈るよ。

大人になるって、けっこう難しいけど

成長した僕を、いつまでも見届けてね?

「大好き!」

「知ってる」

軽く手を振って会社に向かう克哉さんに、僕は大きく手を振り返した。

せめて、あの背中に手が触れる距離まで成長して

振り向いた克哉さんが僕に気付くまで、ワガママには気付かないで欲しい。

だって・・・、まだ子供だと思われたくないからさ。

(克哉さんには、バレバレなんだけど・・・)

だけど、それも悪くないよねと、自分に笑いかけた。


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