オペラ劇場

□Passion
2ページ/4ページ

「これ、ありがとう」

カサッとジャケットが入った紙袋を上げると、別にと煙草を取り出す。

車で家に帰る途中、オレは外を眺めていると、見知った顔が歩道を歩いている。

「あれ?本多だ」

「・・・。そうだな」

本多が歩く先には、オレ達の家しかない。

「遊びに来たのかな?どうする?」

「・・・お前が対応しろ」

車を路肩に停めて、煙草に火を付ける。

お前はどうするんだと尋ねると、適当に遊んで来ると答えた。

「・・・帰って来るよな?」

「お前はバカか?帰る場所は、一つしかないだろ」

車を降りて俺を見ると、視界が少し歪むのは煙草の煙が目に染みたからだ。

「じゃあな」

今生の別れじゃないのに、縋り付きたい気持ちになるのは

どうしようもない程に、自分に恋心を抱いたから。

「おっ?克哉。ちょうど、お前とこに行こうと思ってさ」

「・・・。うん、それなら一緒に行こうか」

「そうだな」

こんな気持ちを抱かせた、俺が憎たらしい。

そして愛おしい。

「でも、こんな所で何してたんだ?」

「ん?散歩だよ」

買って貰ったジャケットを、わざと車に置いて来ていた。

あれを俺が帰ってくる保険にしようなんて、また怒られるなと心の中で笑った。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ