オペラ劇場

□Passion
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夜に本多が帰り家の電話から、俺の携帯に電話を掛けた。

正確に言えば、元オレの携帯。

けれど女の人のガイダンスが流れ、慌てかけ直す。

『お客様がお掛けになった電話番号は、現在使われておりません』

何度かけ直しても、同じガイダンス。

「何だ、これ・・・。何で・・・」

部屋を歩き回り、俺の物を探す。

服も食器も歯ブラシもあり、一度胸を撫で下ろした。

それなら電話が繋がらないのは何でだろう?

携帯が壊れたのなら『お客様の都合により』と言う、ガイダンスが流れる。

それなのに『現在使われておりません』

「どうしよう?俺を捜す?どこを?・・・。早く帰って来いよ・・・」

指を噛んで痛みを確認すると、夢じゃない事が分かる。

手を噛むと、これが現実と分かる。

腕を噛むと、赤い血が少しだけ流れる。

(痛い・・・。痛いよ・・・。だから早く・・・)

「何やってんだ!!」

「あ・・・」

腕を掴まれ、赤い雫が俺の手を汚す。

「お前は、本当に大バカだな!」

「だって・・・。電話が・・・、繋がらなくて」

「たった、それだけでお前は!・・・クソッ!」

乱暴に腕を引かれ、水道で血を洗い流すと、浅い傷口に俺がホッとした表情をする。

消毒等をする俺に小さく謝ると、何も言われずに包帯を巻き終えた。

「・・・」

「お前は、何も信じてないんだな?」

俺が買ってくれたジャケットの紙袋を手渡され、受け取ると歯形が残る指と手が見える。

それとは別に小さい紙袋を渡され、中身を見ると携帯電話が入っていた。

「お前専用と揃いに、携帯を買え変えた」

俺が手にしてるのは、メタルシルバーの携帯。

オレのは色違いの、シャンパンゴールド。

携帯を開くと、ディスプレイには俺がカスタマイズした、Flashアニメの白猫が尻尾を揺らしいる。

白猫の隣で黒猫が欠伸をし終えると、ブルーの瞳がオレを見る。

そして白猫もブルーの瞳。

「信じたくないなら、それでいいが・・・。俺は、お前の傍にいる」

「・・・」

「だから自分を傷付けるな」

包帯の上から傷口を抑えると、息苦しさで眩暈がする。

「信じたくないんじゃない・・・。離れたくないんだ・・・」

これが現実ではない事を、知っています。

この夢が続かない事を、知っています。

けれど信じていた。

これが現実で

この夢が続くと。

だから片時も離れたくないと、思ってしまう。

「だから、お前はバカだって言うんだ」

「バカバカ言うなよ・・・」

「さっきも言っただろ?俺が帰る場所は、一つしかない」

その場所は他でもない、オレが居る所。

俺の頬に手を当てると、されるがままに眼を閉じる。

そんな俺の眼鏡を取り瞼に触れ、鼻筋を撫で下ろし唇を撫でる。

そして俺が瞼を開くと蒼い瞳がオレを捉え、舌先が噛み跡が残る指を舐める。

「覚えておけ。お前が傷付けば、俺も傷付く」

同じ存在の、オレ達は

同じ気持ちを抱き

同じ傷を抱く。

オレが傷付いた場所を、俺が優しく口付けていく。

指、手、腕。

最後に胸。

「ゴメン・・・」

「謝るより、俺に言う事があるだろ?」

上目遣いで、オレを見て瞳を細める。

「ありがとう・・・」

「お前は、バカか?」

「またバカって言った」

唇を尖らすと、ククッと喉を鳴らした俺の唇が触れる。

「大好き」

「それでいい」

夢を見ていた。

それは、とても温かい夢。

そして、とても哀しい夢。

でも俺が同じ夢を見ていると知り

哀しくは、なくなった。


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