オペラ劇場
□Fry Me To The Moon
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「えっ?まだサンプルのデータが、出来てないんですか?」
「他部署を先にしろって、圧力掛けられて・・・。でも今日中に上げるから、待ってて下さい」
製品のデータがなければ、資料制作が出来ない。
けれど必死に謝るラボの研究員に、無理難題を突き付ける訳にもいかず
早目に上げるように頼んで、自分の部署に戻った。
明らかな因縁行為に、苛立ちが募る。
でも、まだ大丈夫。
今日中にデータが届けられれば、夜中になったとしても資料は完成する。
「佐伯さん・・・。大丈夫ですか?」
デスクに戻ると藤田くんが複雑な顔で、オレを心配してくれる。
「うん、大丈夫だよ。藤田くんこそ、大丈夫?」
周りの仕事に迷惑を掛けているのは、業務の邪魔をする連中より、オレの存在だと思う。
それでも目の上のたん瘤なオレを、藤田くんは何かと世話を焼いてくれる。
だから藤田くんに尋ねると、ニコッと笑い胸を叩いた。
「大丈夫ですよ。だから何かありましたら、お手伝いします」
「それじゃあ、この書類を届けて貰いたいんだ」
御堂さんから預かった、他部署に廻す書類。
オレが渡しに行くより、藤田くんだと渡り安い筈。
「はい。承りました!」
「ありがとう。頼むね」
大事に抱えて部署を出ていく藤田くんに、心から御礼を述べた。