オペラ劇場

□Prisoner Of Love
1ページ/4ページ

最初に出逢った時を、今でも僕は覚えている。

『今日から、お世話になります。佐伯克哉です』

すごく綺麗な人だなと思っていた。

色素の薄い髪色。

サファイアブルーの瞳。

そして優しい表情を携える彼。

『よろしく、お願いしますね』

『はい。片桐課長』

最初から、心を奪われていたのかも知れない。

佐伯克哉と言う存在に。





もんてん丸と静御前に餌を与えていると、彼が設定してくれた着信メロディーが流れはじめる。

彼が好きな楽曲。

題名だけしか知らず、メロディーだけなので、誰が歌っているかも分からない。

「はい。もしもし」

『すいません。残業で遅くなるので、そちらに今日は寄れません』

彼の後ろからは、キーボードを叩く音が響いている。

MGNに移ってから、忙しくても僕に連絡してくれる彼に、優しく返事を返すと通話を終えた。

「ピチュイ?」

「静御前?今日、佐伯くんは来れないそうですよ」

鳥かごに触れて語りかけると、パサッと翼をはためかせる。

小さい羽音を響かせる、インコ達。

ずっと、それを独りで聞いていた。

なのに今は、それが前より大きく響いて聞こえる。

「・・・。佐伯くんが居ないと、寂しいですね・・・」

彼と過ごせば過ごす程に、孤独感が増していく。

携帯をキュッと握りしめ、またメロディーが流れるのを待ち望む。

けれど僕は大丈夫だと、彼に笑って告げた。

そして彼は、そうですかと僕に答える。

彼に心配や負担を掛けたくなく、嘘ばかり付いてしまう。

寂しいと言えない程に、歳を取っていた。

逢いたいと言えない程に、歳を取っていた。

『片桐さんの入れてくれたお茶が、一番おいしいです』

『貴方に頑張れって、俺は言いたい。だけど頑張らなくてもいい』

『「どっちにしろ俺は、貴方を愛してる」』

ここに君が居なくて寂しいです。

今すぐ君に逢いたいです。

そんな言葉が伝わらない。

「・・・」

僕が伝えようとしないから。

「・・・静御前、もんてん丸。お留守番頼みます」

「「ピチュイ!」」

それなら伝えればいい。

僕が頑張れば、君は微笑む。

それが、僕にとって救いだった。

『片桐さんは、すごいですね』

あの孤独な日々。

あの辛い日々。

戦う事も逃げる事も赦されず、お飾りの役職。

暗い部屋に、一人で居る虚無感。

『稔さん。今は、俺がいますよ』

君と過ごす毎日が、綺麗に色付き輝いている。

だから君に逢いたい。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ