オペラ劇場

□Prisoner Of Love
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Enterキーを押してファイルを保存すると、ようやく業務が終了する。

帰る間際に出された他人のエラー処理に、内心で溜息を付いた。

「・・・帰るか」

だが、それとは別の溜息も付いていた。

片桐さんの電話の応対が、いつも通りの返答しか返らず寂しいなと思う。

他人に遠慮して言葉を飲み込む癖が身に染みて、付き合ってから一度も本音を聞いた事がない。

「寂しい、・・・か」

戦える強さと、守る優しさ。

どちらかと言えば、俺は戦える強さを欲する。

それのせいで、酷い事を繰り返した。

周りを踏み付け、高みに登ろうと必死だった。

けれど貴方は俺に、大事な事を教えてくれる。

独りでは、どんな場所でも孤独だと。

隣にいた誰かが居なくなって、初めてどんなに孤独が寂しくて辛いか気が付く。

どんなに虚栄を貼っても、孤独は心を蝕んで精神を病ませてしまう。

俺は独りで戦えると思っていた。

けれど今は、二人で戦いたい。

辛い現実や哀しみ、恐怖。

それを、二人で乗り越えたい。

「・・・。バカみたいだな・・・」

考えている事が、なんだか結婚をイメージしていたので自虐的に笑う。

(俺が愛するのも引けを感じているのに、プロポーズなんてしたら逃げ出しそうだな)

簡単に想像が付くのが情けない。

想いの比率が偏っている証拠。

俺がどんなに好きでも

片桐さんは俺を思って、この愛を捨てる気持ちがある。

自分勝手は、どっちだろう?

「はぁ・・・。逢いたいのは、俺だけか・・・」

片桐さんの家に行かないと、あの人とは逢えない。

俺のマンションのカードキーを渡しても、片桐さんは逢いに来てくれない。

「それが、ガキか・・・」

情けない俺を伝えたくない。

だから、いつも片桐さんの家に行くのだ。

片桐さんの家で、二人で過ごして

マンションの自室で思い出し、孤独に堪える。

あの人の前では、強い俺でいたい。

時刻は、もう夜。

「・・・」

それでも逢いたいと思う俺は、貴方に囚われたバカな男。

帰り支度を終えて退社すると、自然と足並みが速くなった。
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