暴走劇場

□泥中の蓮 T
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揺らめく陽炎。

アスファルトに点在するそれは、目には見えるのに、手には出来ない。

「・・・」

本城がぐるりと自分の目玉を動かして世界を見れば、陽炎に色が宿っていく。

黒いアスファルトに、蒼い陽炎。

揺らめく幻想に包まれる人物は、誰だった?

「み・・・っっ!」

その人物の名前を彼が呼ぼうとするが、アスファルトが形を変え、多種多様な虫へと変貌する。

『お前が、そう望んだ』

「ち、ちが」

否定する様に頭を振るうが、虫達はお構いなしに目の前の人物へと這う。

蠢く足。何匹も虫が群がり、人型を作る。

『後悔なんてしません。オレは、この人を選んだ。だから、この人に見合う為に努力するだけです』

何を望んだ?後悔した?何を?何度も?諦めて。羨んで。怨んで。悔やんで。絶望を味わい。辛酸を舐め。苦渋に満ちて。自分自身を裏切って。自分勝手に生きて。何も変えようとせず。陥れる事だけ考えて。

「う、そだ・・・。嘘だ、嘘だ、嘘だ嘘嘘嘘嘘嘘ウソウソウソうそうそうそ嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘」

『あなたとオレは、よく似てます』

じゃあ、どうして、ぼくじゃなく、あいつは、おまえを、えらんだ?

『同じ様な劣等感を、オレも抱いているから』

人型を崩していく虫。

『「お前なんかに、解られて堪るか!!!」』

さけんでも、にげない虫けら。

ならば、ふみつぶしたって、かまわない。

・・・。プチ。プチプチプチプチ、ブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチ・・・。

「・・・っっ!!あ、あ、うぁぁぁぁぁっっ!!!」

踏み潰しても減らない虫達が、本城の身体を覆っていく。

けれど、踏み潰した虫の匂いが消毒液なのを、いつも彼は不思議に思っていた。
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