暴走劇場

□泥中の蓮 T
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無足生物が、何匹も身体をはいずり回る幻覚を、彼が見る。

その度に、怯える手を握り、爪痕が自分の手の甲に刻まれていく。

爪痕が何個増えても怯える彼に、時折嫌な考えをしてしまう。

『御堂なら、本城を救えたのだろうな』

「・・・」

それでも、傍に居たく、自分が救う事を望んだ。

自己満足で出来た、勝手な感情。

「今、君はどんな夢を見ているのかな?」

ようやく鎮静剤が効いたのか、穏やかな寝息を取り戻した本城。

ベッドの端に腰掛け、汗でベタつく髪を櫛で梳かす。

あんなに手入れされていた髪が、枕に押し潰され無惨な状況を醸し出す。

痩けた頬。虚ろな瞳。掠れた叫び声。繰り返し叫ばれる名は、自分の名前ではない。

ピピッと電子音が鳴り響き、仕事の時間を自分に教える。

仕方なく梳かしていた櫛を止め、指先で本城の唇をなぞった。

かさつく皮膚に、小さく呟く。

「早く、起きてくれ。本城・・・」

悪夢ばかりを夢見てないで、早く起きて自分を見てくれ。

僕なら、君を・・・。

「・・・」

愛してあげれるのに、現実を取り戻しても君は僕を見ない。

暑い夏に向かう季節。

自虐的に笑みを零せば、本城がこのままならいいのかと、自問自答を繰り返していた。
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