暴走劇場
□泥中の蓮 T
2ページ/6ページ
無足生物が、何匹も身体をはいずり回る幻覚を、彼が見る。
その度に、怯える手を握り、爪痕が自分の手の甲に刻まれていく。
爪痕が何個増えても怯える彼に、時折嫌な考えをしてしまう。
『御堂なら、本城を救えたのだろうな』
「・・・」
それでも、傍に居たく、自分が救う事を望んだ。
自己満足で出来た、勝手な感情。
「今、君はどんな夢を見ているのかな?」
ようやく鎮静剤が効いたのか、穏やかな寝息を取り戻した本城。
ベッドの端に腰掛け、汗でベタつく髪を櫛で梳かす。
あんなに手入れされていた髪が、枕に押し潰され無惨な状況を醸し出す。
痩けた頬。虚ろな瞳。掠れた叫び声。繰り返し叫ばれる名は、自分の名前ではない。
ピピッと電子音が鳴り響き、仕事の時間を自分に教える。
仕方なく梳かしていた櫛を止め、指先で本城の唇をなぞった。
かさつく皮膚に、小さく呟く。
「早く、起きてくれ。本城・・・」
悪夢ばかりを夢見てないで、早く起きて自分を見てくれ。
僕なら、君を・・・。
「・・・」
愛してあげれるのに、現実を取り戻しても君は僕を見ない。
暑い夏に向かう季節。
自虐的に笑みを零せば、本城がこのままならいいのかと、自問自答を繰り返していた。