1ページ劇場U
□貴方と一緒なら死んでもいい
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少し肌寒いのを気にせずに、ベランダへと足を運ぶ。
真夜中の空には、明るい満月が浮かんでいる。
「・・・」
「・・・風邪。引きますよ?」
声を掛けられて振り向くと、窓枠を背もたれにして佐伯が月を見上げる。
「今日、正確には昨日が十五夜だったから、一目でも見ようかと思ってな」
「凝視してるから、兎でも見えたのかと思いました」
茶化した言い方をする佐伯に、苦笑しながらベランダの柵に腕を乗せる。
「月が綺麗だから死ぬ、なんて言うなよ?」
「そんな明治時代の文豪じゃあるまいし。簡単に、死を選択はしない」
だけど満月は、人を狂わせる魔力を放つ。
「俺は、貴方と一緒なら死んでもいい」
「!!」
肩に熱い手が置かれ、驚いて振り向くと、佐伯は満月を見ながら囁いた。
「知らないんですか?二葉亭四迷が訳した『I LOVE YOU』」
「・・・つまり、私を愛してると?」
「さぁな?訳し方は、人それぞれだろ?」
素直じゃない彼に笑みを零して、満月を見遣る。
「そうだな・・・。だが私も、君と一緒なら死んでもいい」
「・・・それは光栄です」
けれど今は、君と一緒に生きていたい。
背中に佐伯の熱を感じながら、真夜中の月を一緒に眺めた。