お題劇場

□五月蝿い街
1ページ/1ページ

あの冬の別れから、半年が経過した。

今は、御堂の事など話題にも上がらない位に、時間が過ぎていた。

「佐伯さん。書類、置いときますね」

MGNに異動してから仕事は忙しくなったが、段々と冷めゆく心に虚無感を感じる。

外は夏を感じさせる、熱気の渦。

去年は、そこを≪オレ≫が歩いて仕事をしていた。

「・・・。少し出てくる」

「はい。分かりました」

藤田に事付けると、鞄を持ち外に向かう。

唸る暑さに、車の排気音すら苛立ちを募らせる。

「・・・」

焼けつくアスファルト。

それに対して、冷たい心。

御堂が居なくなって、まだ半年。

もう、ではなく、まだ。

この五月蝿い街を捜せば、貴方に逢えますか?

(逢ったとしても、アイツは二度と俺の顔なんか見たくないか・・・)

自分で行なった行為を、今更になって後悔するなんて。

『馬鹿にするのも大概にしろ!』

まだ、忘れえぬ姿。

まだ、忘れえぬ声。

何時か消えるまで、この心に留まってくれ。

眼鏡を外し額の汗を拭うと、早く季節が移り変わり

思い出に重なる季節となり

貴方の姿を、より一層、思い出せる様にと願った。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ