06/26の日記

11:45
君か笑っているなら、それでいい。 御克前提の本多話
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高身長、高学歴、高収入。女子なら必ず惹かれる三大要素を持ち合わせている男を、本多は嫌いであった。
嫌いという言い方には語弊があるが、男は横柄であったし、高慢でもあったからだ。
最初の印象が最悪過ぎたのも、理由の一つだろう。
だから、いつまで経っても本多の中で、尊敬はしているがいけ好かない野郎だという認識が拭えないでいた。

会議室に残された黒い色をしたスマホを片手に、どうしたものかと頭を掻く本多。
そのスマホの持ち主は、先程散々自分を馬鹿にした相手、御堂の持ち物であった。
返すのは容易なのだが、簡単に事が終わらず、持って行った事で藪蛇になれば踏んだり蹴ったりである。
善意で持って行ったのに、先程の話をぶり返されれば。

『克哉は、元気ですか?』

プロトファイバーの一件から、一年と数カ月。
その間にMGNに引き抜かれ、今はシカゴにいる親友の事を聞けば、心底から馬鹿にしたような顔で、君はいつでも佐伯君の名前を出すのだな?と返すのは、一人しかおらず。
克哉がシカゴに行く話を聞いていた本多にしてみれば、他愛のない会話の中の一つで。
一番信頼している人だと親友が語るから、近況くらいは聞かせて貰えると思ってのこれである。
腹が立つ言い方をするから、売り言葉に買い言葉で、共通の話題は克哉しか無いのだから、少しは話を合わそうと思ってくれてもいいじゃないかと本多が告げる。
海外に出向しているからメールも半減して、電話も鳴らなくなったのだから余計に。
親友が元気か位は、答えてくれても罰が当たらない筈だと思いながら。

『君との話に私が合わせるのではなく、君が私の話に合わせるのなら聞いてやらなくもない。無論、仕事の話だけにして欲しいが』

「あ〜、今日もムカつく野郎だったな。少しは丸くなったと思ったのに、克哉がいなくなった途端にこれだ」

ぼやくように窓の外を眺め、シカゴまで続いている空を本多が見上げる。
今日は快晴で、雲一つない。
そして、ふっと思い立って、スマホの電源ボタンに触れる。
最近、8課で話題になっている事がある。
それはスマホのロック画面を何にしているか、である。
片桐が設定した画面は、飼っているセキセイインコの写真で、皆口を揃えて可愛いと絶賛していた。
本多の画面は、草バレーチームの者達と撮った、集合写真で。
親友の克哉も、穏やかな顔で映っている。
御堂の画面は、どうだろう。
変な画像だったら、溜飲がかなり下がり、意外なものだったら、親近感が湧くかも知れない。
初期設定のままなら、やはり冷血漢の合理主義者だと思って諦めて、藤田にでもスマホを託そうと思いながら、興味本位で電源ボタンを本多が一度だけ押した。
ゆっくりと明るくなっていく、スマホの画面。
いつも以上に太陽の光が会議室に届いているからか、自分のスマホ画面より明るいなと、本多が思う。

「何だ……。元気にしているじゃねぇか……」

綺麗に指先を二本立てて、画面の中ではにかむ笑顔を披露する克哉に、思わず本多が笑いを零して、自動的に暗くなったスマホをポケットに入れる。
そして話を合わそうとしない男に、話を合わせてやろうと考えながら、会議室の扉へと向かう。

『さっきは、すいません。御堂さんも、克哉の話がしたかったんですね?良かったら、聞いてあげますよ?』

苦虫を噛み潰した様な顔をしたら、万々歳だ。

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11:44
黒海に落ちる メガミド
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「子供の頃、近くの公立に通う私と同じ歳位の小学生が、白線踏みと言う遊びをしていた。道路にある白線が安全な道で、この線を踏み外したら、黒いコンクリートと言う名の海に落ちる遊びだ」

珍しく酔った御堂が、道路脇にある歩道者用の白線の上を楽しげに歩み、その後ろを佐伯が付いて歩む。
彼の方も遊びに興じており、恋人の靴を見ながら、歩を進めていた。

「その遊びをする子供達を、羨ましく思う反面、どこか冷めた目で見ている私がいた」
「俺なら、羨ましいとも思いませんが」
「お前なら、そうだろうな……」

十字路に向かう手前、ふっと御堂が足を止めて、見詰める先は広大な海。
真夜中の海はいつもより黒く、心許ない電灯が少しばかり照らすだけで。
安全な道を歩いていくには、右に曲がればいい。
道を外れて海に落ちるなど、愚か者がする判断だからだ。

「佐伯……。今も、心のどこかで冷めた目をしている私がいる……」

様子が可笑しい事に気付いた佐伯が、ゆっくりと顔を上げれば、恋人が振り向いていた事に気付く。
けれども、電灯が当たる場所にいない為、表情までは解らず。
そして、また御堂が前向くと、安全な道を外れて、十字路の真ん中へと向かう。
真夜中の為、車は来ないが、暗い海の中に、いま彼は独りだ。

「遊びに本気になって、どうする。どうせ、一時の戯れに過ぎない。いつか、また」

心許ない電灯が、御堂の表情を照らし出す。
その表情は、一見酔いで生み出されたかの様に思えるが、安全な道を外れた者の瞳は哀しげに歪んでいた。

「いつか、また私は置いていかれるのだ、と」

思わず、佐伯が1歩、広大な海へと足を踏み出す。
2歩目は、早く。3歩目から、駆け足になり。
形振り構わず相手の身体を抱き締めれば、もう置いていかないでくれと、か細い声が彼の耳に届く。

「誰が……、置いていくか……」

だから、返した。無力な言葉を。
自分の過ちから目を逸らさずに。
今まで歩んで来た道を、冷めた目で見てるだろう彼へ、心からの言葉を。
海の底まで、道連れにしてくれても構わないと思いながら。

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