HIT記念
□パパとお買い物
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「よし、戸締りOKっと。行こっか?咲耶」
「うん♪」
今日は学校はお休み。でもいそがしいママはお仕事で、お姉ちゃんはお友だちのところ。
ときどきやってくる、こんなパパとふたりっきりのお休み。そんな日は、ふたりでお買い物に行く。
ママとお姉ちゃんがいっしょだとうるさくてゆっくりできないお買い物。それは、ママのおようふく。
だってふたりとも、すぐ“もったいない”って言うからさ。
『かんりしょく』で『かちょうさん』のママは、お仕事の時はいつもきちっとしたスーツをきている。
そんなママももちろんかっこよくて大好きだけど、お仕事じゃない時には、せっかくかわいいんだから、もっとかわいいかっこうをしたらいいと思う。
でもママは“この方が楽でいい”“もったいないだろそんなの”なんていって、なかなかかわいいかっこうはしてくれない。
ジーンズとパーカー。
初めてパパがみた、学校でもバイトでもないママのふく。それは、今もあんまりかわらない。
そんなママのために、パパとあたしはママににあうかわいいふくをさがしに行く。
車にのって、大きな公園の駐車場へ。そこからパパと手をつないで商店街を歩いていく。
商店街のはんたいがわにも駐車場はあって、今から行くお店にはそっちの方が近い。なのにパパは“こっちの方が広くてとめやすいからね”と言ってわざわざ公園の駐車場に車をとめる。
でもあたしは、パパが遠くの駐車場に車をとめるほんとうのりゆうをしっている。
公園とそこから商店街をぬけて大きな通りへとつづく道は、パパとママが初めてデートしたところだから。
パパはその道を歩くのが大好きなんだよね♪
『普通は初デートって言ったら遊園地とか映画とか』
お姉ちゃんはなんだかふまんそうだけど、そんなの、どこだっていいんだと思う。だってあたしはママといっしょにいるだけでとっても楽しいから。
大好きな人といっしょなら、ただだまってそばにいるだけで楽しい。それがいつもとちょっとちがっていたら、それはもう“とくべつ”なんだ。
パパとママがはじめてやくそくをして、はじめて一日中いっしょにすごした“初デート”。
おまけにその日はママのおたんじょうびで、ママはとってもおしゃれしてかわいかったんだって…これは紗奈おばちゃんが教えてくれた。
ママがはじめてパパのためにおしゃれして、はじめてふたりでいっしょにおいわいしたたんじょうび。そんな一日は、パパとママのたくさんの思いでの中でも、きっとすっごく、スーパーでスペシャルなんだと思うんだ。
人でいっぱいの通りを歩いていくパパの顔は、とっても楽しそうにみえるから…。
「…ん?どうかした?咲耶」
「…ううん。なんでもないよ」
この道を歩いている時のパパの顔は、みてるとあたしも楽しくなってくる。だからあたしは歩きながら何回もパパの顔をみてしまう。
「…ちゃんと前見てないと人にぶつかるよ?」
「うん。わかってる」
「…ならいいけど」
「うん。大丈夫だよ」
そう言ってあたしがわらうと、パパもあたしをみてにっこりわらう。
言わなくてもあたしが何を考えているかなんてパパはおみとおしで、前なんかみてなくてもあたしがだれかにぶつかったりしないように、パパはちゃんときをつけてくれている。
そんなこと、言わなくてもわかってる。
だからパパとあたしはしっかりと手をつないで、ただのんびりとこのみちを歩いて行くんだ…。
「今日のお昼はふたり分だな…。咲耶、なにが食べたい?」
「…んー…」
お昼かぁ…なにがいいかな〜。…ごはんのほうがいいなあ。ん〜っと〜…。
「あ、そうだ!カツ丼がいいっ!」
パパの、あまくてたまごがトロトロのカツ丼。カツもサクサクで、おいしいんだよね〜。
「カツ丼か〜、じゃあ、帰りにそこのお肉屋さんで、豚カツ用のお肉買って帰るかな」
「…コロッケも、でしょ?」
そう言いながらパパの顔をみあげると、パパも楽しそうにわらいかえしてくれる。
「…フッ…そうだね」
商店街のお店はそのころとはずいぶんかわってしまったと前にパパが言っていた。でもパパとママがあげたてのコロッケを買ってたべたお肉やさんはまだのこってる。
パパの作るのとは形も味もちがうコロッケを、ちょっとはずかしそうにたべるママはなんだかとてもかわいくて、あたしはそんなママをみるのが大好きなんだ。
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