under
□☆The Second Time Round
1ページ/5ページ
二度目の…というのは、男にとって、むしろ最初の時よりも重大な問題なのではないだろうか。
特に相手が初めてだった場合、初体験を終えたばかりでまだ戸惑っているはずの彼女に“次はいつ?”…なんて欲望丸出しで聞くのは、男としてちょっとどうかと思う。
それでも、一度覚えてしまった“好きな女の子の味”。
それはあまりにも魅力的で、もう一度という欲求は留まるところを知らず、心と身体を苛み続ける。
もう一度あの柔らかい身体を抱き締めて思うがままにしたい。
この愛しさを余すところなく全てぶつけてしまいたい。
彼女は自分のものになったのだと、あれは一夜の夢ではないのだと、もう一度確かめたい。
…特にそれが今目の前にあるのに触れることさえ許されないというのは、最早拷問に近い。
あの柔らかい唇を味わいたい。
あの白い首筋に顔を埋め、甘い香りに身を浸し力いっぱい抱き締めたい。
あの膨らみの張りと弾力の心地よさときたらもう、思い出すだけで…。
「碓氷」
「何?」
「…仕事がしづらいんだが」
「俺、見てるだけだよ?」
「見過ぎだ」
「そうかな?」
「そうだ!」
「気にしない、気にしないv」
バンッ!
「気にするわ!!!」
と、鮎沢は両手で机を叩きながら叫んだ。
…そう、ここは生徒会室。
求めて止まない愛しい彼女は仕事中で、周りには邪魔な生徒会役員の男共。
「大丈夫だって。どうぞ、お仕事続けてください、会長様v」
俺は内心の葛藤を隠し精一杯の笑顔で言ってみたのだが。
「私は大丈夫じゃない!!」
ふたりの時の可愛いらしさはどこへやら。
鬼会長と化した彼女は俺を廊下に放り出した。
「終わったら連絡する」
という小さな囁きと共に。
…屋上は寒いし、…図書室かな…。
鮎沢を初めて抱いたのは金曜日の夜。
土曜日の朝彼女は帰って行き、残された俺は彼女の残り香と一夜の思い出に心地よく浸りながら土日を過ごした。
そして今日、月曜の朝。
約二日ぶりに見た彼女の姿になぜか俺の心はかき乱され、いつものようにからかう余裕もなく、足早に彼女の前を通りすぎた。
鮎沢はちょっとの間不思議そうにこちらを見ていたが、直ぐに、後からやって来た生徒の服装に声を荒げていた。
そして1限目の体育。
髪を束ねた鮎沢のうなじに何度も眼が吸い寄せられる。
彼女から目を逸らすことができない。
いつも授業は適当だが、…頭でバレーボールを受けたのは今日が初めてだ…。
それからずっと俺は溢れ出ようとする欲と戦いながら現在に至る。
鮎沢は当然初めてだったが、俺は違う。
それでよかったと思っている。だからあの夜、俺は彼女を大事に扱う余裕があり、可能な限り優しくすることができたのだと。
今までこんなに誰かを求めた事なんてなかった。
もちろん、俺だって自分が初めての時には好奇心もあった。が、終わってみれば感想は「こんなものか」であり、一瞬の快楽も癖になるようなものではなく、特に欲した覚えはない。
その後の経験は「断る方が面倒だった」それだけだ。
鮎沢を好きになって、初めて自分が「男」だと感じ、彼女を「欲しい」と思った。
でもそれはうきうきとした高揚感。いつかきっと手に入れるという、明日への希望。
なのに今感じているのは、胸を焼く焦燥感。気も狂わんばかりの渇望。
…ふと立ち止まり、横を見るとそこには身だしなみチェック用にと各階に設置された大きな鏡。
映っているのは、焦りから眉間に皺をよせ、渦巻く欲を胸に抱えた男の顔。
「…俺は碓氷拓海だろ〜?」
鏡に額を預けてひとり呟く。
こんな情けない俺を、俺は知らない。
図書室でぼんやりと過ごす。
誰か話しかけてきたような気もするが、よくわからない。
待ち焦がれているのはメールの着信を知らせる震え。
頭をよぎるのはあの夜の彼女の…。
制服姿だと細いばかりの鮎沢。なのにその下には滑らかで柔らかな美しい肢体が隠されている。
特に反則なのはあの腰のラインの艶かしさ。あんなぞくぞくするほど色っぽいなんて、普段の鮎沢から誰が想像するだろう。
…いや、色っぽいなんて言葉じゃ足りない。あれはもっとこう、なんて言うか…
「エロい、だよなー…」
…思わず口をついてでてしまった。でも、そう、あれはエロい。うん。
夏のビキニ姿もかなり衝撃的だったが…あの時は他のやつに見せたくないばかりに必死で、背中にキスマークをつけたっけ。
温泉に行けなくていじけた鮎沢にちょっと後悔はしたが…お化けを怖がるかわいい鮎沢も見ることができた。
この間は初めてだったし、慣れるまでは時間がかかるだろう。
が、経験を積んだ彼女がもっとみだらに乱れるようになったとき(もちろんそうするべく努力するつもりだが…ワオ!この俺が“努力”?)今でも十分病的に鮎沢にのめり込んでいる俺が…自分がこの先どうなってしまうのか、…いろいろと、自信がない。
“自信がない”初めて味わう感情だ。こんなにも自分が頼りなく感じるなんて。
「!」
待ちかねた感触に、俺は携帯を開くのももどかしく走りだした。
彼女の元へ。…犬っころのように。
俺は碓氷拓海だ。でも…そんな事、どうでもいい。
「生徒会室」の看板を見て少し落ち着きを取り戻し、足を緩める。
走り込みでもしたら、それこそ彼女から大目玉だ。
息を整え、頬を叩いて顔を引き締める。
念のためメールを確認…「終わった」と一言。…彼女らしい。
ふっ…と笑みがこぼれた。ただの活字なのに、鮎沢の存在を感じる。
焦りが少し和らぎ、落ち着きを取り戻す。
そうだ“初体験”を終えたばかりの鮎沢にはまた別の戸惑いや葛藤があるはずで、それこそ余裕なんてあるはずもない。
男としてはむしろそちらを思いやってやるべきなのに。
「らしくないよなぁ、やっぱり」
いつもなら、そう出来るはずなのに。
大きなため息。
鮎沢に振り回されるのは嫌な気分ではない。
でも、…情けない自分は見せたくないから。
俺はもう一度気を引き締めると、生徒会室のドアを開けた。
.