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□☆ずっと、一緒に
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―…初めて、両腕でしっかりと、碓氷を、抱き締めた…。




碓氷に抱き締められたことは何度もある。

それは温かくていい匂いがして、めまいがするほど心地良くて…。

―このまま素直にすべてを委ねてしまえたら…いつもそんな気持ちにさせられる。

でも私はそんな自分がどうしようもなく恥ずかしくて悔しくて、私からは抱き締めかえすことが出来なかった。

名前のないこの関係に対する戸惑いや、自分の気持ちを伝えていない後ろめたさ。

…そんないろんなものが邪魔をして、遠慮がちに碓氷の腕や服の裾を掴むのが精一杯だったんだ…。



ようやく、ちゃんと気持ちを伝えられた。この想いを届けることができた。

そして、碓氷から返ってきた言葉は…。


『俺の恋人になってくれませんか』


―――こいびと?


…私が…碓氷の…恋人……。


『…なってやるよ。お前の恋人に』


そう答えながら引き寄せられるまま、初めて碓氷の広い胸に深く顔を埋め、ぎゅっとその身体にしがみついた。

胸がいっぱいで苦しくて、でも、喜びが身体を満たし溢れていく。

素直な気持ちで飛び込んだ腕の中で感じるのは思っていた以上の幸福感。それはなんて温かくて心地いい…涙が出そうだ…。


やっとこの気持ちを伝えられた。やっと、この関係をはっきりさせる事ができた。やっと…碓氷の傍にいることが出来る。

今日から私は碓氷の恋人。だから遠慮なく碓氷の隣にいられる、碓氷を守ることが出来る。もう離れるなんて言わせない。碓氷とずっと、一緒にいる…。

ぎゅっと抱き締めた身体は大きくて、なのになんだか小さな子供のようにたよりなく感じる碓氷。大丈夫だ…これからは私が守るから、な……。



「鮎沢…」


小さく呟いた碓氷の右手が頬に触れる。ゆっくりと顔を上に向けさせられて、目と目が合って、それから…。




「…でね〜………なのよっ!」

「え〜!?でもあそこは…………でしょう?」

「それが違うのよ!…………」

「え〜!?………」





「…っ!」


遠くから響いてくる声に我に帰った。〜やばっ、ここ路上…!しかもうちの近所だしっ!!

そういえば今何時だ!?あの声は隣のおばさんか!?…まさかそろそろウォーキングの時間…さ、さすがにこのままじゃまずい!でも…。


「鮎沢?…どうかした?」


碓氷が顔を覗き込んでくる。わっ…ちち近い!いや、でも、うっ…!



「いぃいいやっ、あ、あの…っ」


わたわたしていると、碓氷が面白そうに笑いはじめた。


「…ぷっ…くくっ…ねぇ…少し歩こうか?」

「…え?」

「もう少し、一緒にいたいから…ダメ?」

「う…い、いや!…別に…ダメじゃ、ない…」


私も、もう少し一緒に…だって、やっと碓氷と…だからまだ帰りたくない。碓氷と離れたく…ないんだ…。


「…鮎沢、鞄は?」

「え!?あ、ああ、大丈夫。玄関に放り込んできたから」

「そ。じゃあ、はい」


目の前に差し出された手。ええっと、これは、やっぱり…?


「ん?」


催促するようにこちらを見る碓氷。私は、おずおずとその手に自分の手を重ねた。


「あっ…!?」


あっと言う間に私の手は碓氷の手に器用に絡め取られてしまう。

しっかりと指を絡めて繋がれた手。これは、あの、夢咲の文化祭の時も…。


「恋人繋ぎ。…いいでしょ?もう、恋人なんだから」


少し照れたような、でも、心底嬉しそうな碓氷の顔。


「…お、おう…」


顔に熱が集まってくる。そそ、そうだよなもう、恋人なんだからな…。

手のひらに伝わる確かなぬくもり。本当に、碓氷と恋人同士なんだ、よな…うわっ!?


繋いだ手を引っ張られて引き寄せられる。そして…。


「ね、少し走ろうか?」

「は?」

「寒いから。ね、いこ?」

「あ、ああいいけど…わっ、ちょっ、引っ張るな!!」

「ふふっ」


遊園地ではしゃいでいた時のような、碓氷の嬉しそうな顔。思わず私も頬が緩んでしまって。


「ぷはっ!」


しっかりと手を繋いだまま、私たちは走りだした…。








「…やっと、まとまったみたいですね」

「そうね〜美咲もすっかり女の子らしくなって…うふふv」

「ヨウくんは失恋決定か…でもまあ、あの人が未来のお義兄さんなら、いろいろと安心…明日はお赤飯だね、お母さん。うぇっへっへっへっ」

「あらあら、それは少し気が早いんじゃないかしら紗奈。うふふ…」



「あら、鮎沢さん!こんばんは〜」

「…紗奈ちゃんも。どうしたの?寒いのにこんなところで」



「こんばんは〜。いえ、ちょっとね…うふふ♪」

「うえっへっへっへっへ♪」



「「…?」」



紗奈と母さんに一部始終を見られていたことを私が知るのは、ずっと後のことになる…。





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