だ ぶ る
□END OF EARTH
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「―翔太郎、あきちゃん、大変だ!」
暖かい昼下がりの鳴海探偵事務所。特に変わった依頼が来ることもなければ、もちろんドーパントが出現する訳もなく。いつ何が起きるか分からないから仮眠をとる、などと適当な言い訳を付けてソファーで昼寝をしていた左翔太郎は、相棒フィリップの大きな声で目を覚ました。
「んだよ…どうしたんだよ、フィリップ」
まだ少し眠たそうな体を起こしてソファーに座りなおすと、眠りを妨げられ少々不機嫌そうな声で何があったのかと翔太郎が問いかける。
「さっき“地球”についてを検索していたんだけどね…」
いつものように顎に手を当て、深刻そうな顔でフィリップが言いかけると、コーヒーを注いでいた亜樹子がそこに口を挟んだ。
「どうしたの?もしかして何か悪い物でも閲覧しちゃった…とか?」
当たり、とこそは言わなかったものの、依然として暗い表情でフィリップが頷く。
「マヤ文明の予言だよ…」
「マヤ…?」
同時に首を傾げて頭に疑問符を浮かべた翔太郎と亜樹子。
「―あぁ。マヤ暦では、2012年12月22日で暦が終わっているんだ…。―これがどういうことだか分かるかい?」
「…それって…2012年12月22日には地球が滅亡するっつーことか…?」
ごくりと息を飲みながら翔太郎が俯きがちに言う。
「そんなのただ面倒臭くなったからそこでやめたってだけの話じゃないのー?」
何処から持ってきたのか、ポリポリと暢気な音をたてて、スナック菓子を口一杯に頬張りながら亜樹子が問いかけた。
「それだったらいいんだけど…」とフィリップまでもが俯き言いながら続ける。
「マヤの予言だけじゃないんだ…。インカ文明の末裔・ウィルヒュアタによると、『2000年を過ぎた頃、人類に在亡の危機が訪れる』という言葉が残されているらしいんだ…。」
「……。」
暫く続いた沈黙を破るように亜樹子が大きな声を出した。
「もー、マヤ文明だかイルカ文明だか知らないけど、きっと大丈夫よ!」
「あきちゃん…」
フィリップが俯けていた顔を上げる。
「“イルカ”じゃなくて“インカ”だよ…」
「そ…そんなことはどうでもいいのよ」と口を尖らせながら言った亜樹子が気を使ってくれていると感じた翔太郎は、ソファーから立ち上がると、亜樹子に続くように声を張り上げた。
「そんなん出鱈目(でたらめ)だよ!気にするこたぁねえよ!」
亜樹子とフィリップが翔太郎に視線を移す。
「亜樹子の言う通り、その…マヤとかいう奴がメンドくなってそこで止めたんだろ!んで…偶然イルカさんと適当に書いた予言が一致しちゃっただけっつー話だろ!」
翔太郎の実に不合理な意見を聞くとそれまでそこに漂っていた重い空気は、疾風のごとく一気に吹き飛ばされた。
「そーそー!そうに違いないわよ!」
翔太郎に同意するように微笑んで首を縦に振る亜樹子。彼らをじっと見つめた後、釣られるようにフィリップがふっと顔を綻ばせる。
「―…そうだね、そういう事にしておこうか」
口にはしなかったが、もしも2012年に地球が終わるとしても、この2人達と笑顔で最期を迎えられるといいな、と思うフィリップだった。
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あとがきです。
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