タン/ブリン/グ

□水沢の恐怖
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放課後の男子新体操部室。
部活も終わり、普段だったらムンムンとした暑苦しい雰囲気が漂う筈のこの部屋に、今日はひんやりとした空気が流れていた。

すっかり日も暮れ薄暗い部室の真ん中で、電気も点けずに丸く輪になっている男達が、其処に居た。

「んで、その男が、ふっと後ろを向いたら…」

亮介が顔の下で懐中電灯を照らして怪しい笑みを浮かべている。

「む、向いたら…?」

話しに熱中しながら航がゴクリと息を飲むと、話を急かすように亮介をじっと見た。

亮介の話を集中して聞いているのは航だけではない。日暮里は眉を八の字に下げながら、隣に居る航の腕をがっしりと掴んでいる。

怖がっている様子が面白いのか、亮介は暫く溜めるように間を空ければ、ゆっくりと口を開いた。

「あの時死んだ筈の女がああぁぁぁっ!!」

「うわああぁぁっ!!」

亮介が突然大声を出すと、本人の予想通り、航と日暮里が部室中に響く叫び声を出した。

「はははっ! マジウケる〜」

亮介が語尾に音符を付けるような言い方で嬉しそうに微笑んでいる。

「おい、亮介! 吃驚させんなよ〜!」

航が心臓を押さえながら息を荒げて言った。

その隣では日暮里が航の背中に隠れるようにしてガクガクと震えている。

「亮介さんっ! その話、怖すぎますよーっ!!」

「はっはっは! …あ、あと、この話を聞いた奴には、その死んだ女が背後霊となって憑いてくるって…ウ、ワ、サ」

更に追い討ちを掛けるように、亮介なニヤリと微笑むと静かにそう呟いた。

すると、水沢が四つん這いになりつつ亮介に近付き、確認を取った。

「りょ、亮介。その話って、本当…?」

亮介は暫く考えるように上を向いていたが、水沢と視線を合わせると、意地悪く「さあな〜?」と微笑んだ。

それらのやり取りを横で聞いていた悠太がその場から立ち上がり、声を上げた。

「ほ…ほら、怖い話しはもういいから。そっ、そろそろ帰るぞ」

「…キャプテン、声が震えてますよ」

火野が悠太に続いて立ち上がると、部室の電気を点けて、すかさず突っ込みを入れる。

「悠太だって怖えんじゃねえのー?」

航も立ち上がり、お尻に付いた埃を払うと、悠太の顔を窺うようにしながら言った。

「べっ、別に俺は…」

そこに木山が静かに口を開いた。

「どうせ作り話だ、気にする事ねえよ」

土屋も同意するように言う。

「木山さんの言う通りですよ、気にする事無いですって!」

「わ、分かってるよ…」

目を泳がせながらも悠太が頷いたが、次の悠太の一言で、皆の視線が水沢に向けられる事になった。

「…って、どうした、水沢…?」

悠太が首を傾げて言うのも無理は無い。水沢は、部室の隅でスポーツバッグを抱えて小刻みに震えていたのだ。

「み、水沢くん…? 大丈夫ですか?」

航達の次位に怖がっていた金子さえもが苦笑いになってしまった。

「へっ…。あっ、あぁ、だだだ大丈夫…」

その場に居た全員が明らかに大丈夫じゃないだろうと心の中で突っ込みを入れていると、突然部室の扉が開かれた。


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