タン/ブリン/グ

□キャプテン
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独り部室に取り残された悠太は、後悔の二文字に追われていた。

―…キャプテンの俺が皆を纏められなくてどうするんだ。

「こんなんじゃ、キャプテン失格―…」

自然と足下を見つめていた視界が滲んできてしまう。

泣いては駄目だと分かっているのに、一度涙が頬を伝うと、止まらなくなってしまう。

「うっ…ひっく…」

遂にはその場に屈み込んでしまった。しかし、次の瞬間に悠太は素早くジャージの裾で涙を拭うのだった。

「キャプテン…?」

其処には、休憩時間も休まず練習をしていた火野が、目を丸くして立っていた。
下校時間になり鞄を取りに部室まで来た所で、キャプテンの悠太が目に涙を滲ませていたのだ。
いくら冷血な火野でも、黙ってその場を逃れる筈がない。

「どうしたんですか…」

それでも落ち着いた様子で泣いている悠太の横に歩み寄り横に屈むと、背中を擦ってやる。

「いや、何でもないよ…」

苦笑を浮かべて、火野に気を遣わせまいとする悠太だったが、火野は「その様子で何でもない訳が無いでしょう」と表情を濁すと、言い継いだ。

「他の皆はもう帰ったんですか…?」

その問いに悠太は俯いたまま答えた。

「帰ったというか…、俺が帰らせたと言った方が合ってるのかな…」

その言葉を聞いた後、火野はその場から立ち上がると、悠太の腕を「ほら、しっかりして」と引くようにして立たせて、はっきりとした口調で続けた。

「…何があったのかは分かりませんけど、キャプテンの貴方がそんな事でどうするんですか。」

悠太は依然俯いたまま、暗い表情で答える。

「でも俺には…」

「でもじゃないですよ! …キャプテンは貴方しか居ないんですから」

「…。」

火野は悠太の肩を掴むと、真剣な表情で語勢を強めた。

「…キャプテンはキャプテンのやり方で良いじゃないですか。誰が何と言おうと、僕はそのやり方に付いて行きます」

悠太は何時に無い火野の言葉の強さに顔を上げると、真っ直ぐに視線を合わせた。

「火野…。有り難う」

「いえ…。それでは僕はこれで失礼します」

「あぁ、また明日」

火野は優しく微笑むと、鞄を片手にゆっくりその場を去って行った。


***…

次の日 、 悠太は何時もの練習時間より一時間も早く来ていた。
昨日火野に言われた一言で再びキャプテンとしてしっかりしなくてはと自覚が芽生えたのだ。

体育館に着くと、悠太は思わず自分の目を疑った。

「アニキ、もうちょっと足伸ばせますか!?」

「あ〜もう! これが精一杯だっつんだよ!!」

そこには、一生懸命に倒立をする航と、それを指導している日暮里の姿があったのだ。

「航、日暮里」

悠太が声を掛けると、二人は目を見開いて此方を見るばかりだった。

「ゆ、悠太…」

航が目をぱちくりとさせながら頭を掻いている。

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