タン/ブリン/グ
□キャプテン
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「は? 今まで俺等がやる気無かったとでも言いてえのかよ」
聞き捨てならないとばかりに亮介が水沢の方に振り向くと、頭を掻きつつ顔を引き吊らせた。
「別にそんな事は言ってないけど…」
「おいおい、けどって何だよ!」
それを聞いていた日暮里は抑え切れなかったのか、怒りを言葉に込めるように先輩にも関わらず、水沢を指差した。
今度はそこに金子が言葉を発した。
「み、皆さん落ち着いて下さい!」
「メガネ猿は黙ってろや!!」
日暮里が鋭い視線を金子に向ける。
「メガネ取ったらメガネ猿じゃなくなりますってば!!」
それに反発するように金子が声を荒げた。
「―…みんないい加減にしろっ!!」
遂に悠太が今までに無いくらいに大きな声を発した。
その声は、叫び声ともとれるぐらいの大きさだった。
「月森も航も…。それ以外の奴等も…。もうやる気が無いなら帰ってくれて良い…。」
悠太が俯き気味に声を震わせた。その強く握られた拳から、普段あまり叫ぶ事のない悠太が本気で怒っているのだという事が、その場に居た全員に解った。
「…やってらんねー、俺帰るわ」
「アニキ、俺も帰ります」
「ちょっ…、待てよお前ら!」
亮介は数分前とはうって変わった様子で、扉の前の悠太を軽く突き飛ばすと、スタスタと部室を去って行った。日暮里も一瞬航に視線を移したが、それを追うように亮介に付いて行く。
「…気分悪くした。俺も帰る」
水沢もそう呟くと乱暴に鞄を持ち、俯いたままその場を後にした。
「…すみません、僕も今日は失礼します」
後に続くように金子までもが足早に立ち去って行った。
「ちょっと待って下さいよ」と焦り気味に言う土屋をよそに、先程まで黙り込んでいた木山がゆっくりと立ち上がった。
「き、木山さん…?」
「こんな状態で練習したってしょうがないだろ。少しは頭は冷やす時間でも遣っといた方が良いしな」
木山はそう言い残すと、部室のドアをゆっくりと引いて居なくなった。
「〜…っ、木山さん待って下さい!」
土屋は暫く俯いて立っていた悠太と、ついさっき去って行った木山の方とを交互に見ていたが、木山の背中を追いかけて小走りで部室を出て行った。
残された航は、何も言わずに俯いたままの悠太を気遣うように声を掛けた。
「―…ゆ、悠太…?」
「航…お前も帰れ…」
低い声のままそう言った悠太を、お人好しの航がそう簡単に残して行ける筈が無かった。
「帰れっかよ…」
気遣うように航が悠太の肩に手を伸ばしたが、次の瞬間に、その手は悠太によって振り払われてしまっていた。
「帰れって言ってるだろ!!」
「…。」
新体操を始める前だったら確実にキレていただろうが、航は後ろ髪を引かれる思いで無言のまま部室を出ていったのだった。
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