タン/ブリン/グ

□キャプテン
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「悠太ぁ〜」

夏休みの練習の休憩時間、疲れきった雰囲気の漂う部室で、航がキャプテンの名前を呼んだ。

「何だよ、航」

悠太は、声の主が何時もの強気な感じとは違った様子で己の名前を呼んだ事に気づいたが、平然とした口調で返し、声のする方へと視線を向けた。

「疲れた〜…」

そう言ってソファー代わりに使われている跳び箱に寝転ぶ航を横目に鞄にジャージを詰め込みながら悠太は溜め息混じりに、やれやれといった表情をした。

「…航だけが疲れている訳じゃないんだ。あと一時間だけだから、皆も頑張ろう!」

もちろん悠太自身も疲れていたが、キャプテンである自分が弱音を吐く訳にはいかないと、場の空気を変えるように手を叩いた悠太だったが、疲れきった部員逹が返事を返す事はなかった。

「…ほら、みんな立て!」

それでも悠太は諦めずに航の背中やかったるそうにケータイを弄る亮介の肩を叩く。

「っつーかさー、皆こんだけ疲れてるんだし、今日はもう終わりで良くね?」

亮介がケータイを馴れたような手付きで打ちつつ、言葉を発した。

そこに、マネージャーの土屋が悠太を庇うように口を挟んだ。

「で、でも、もうちょっとで大会も近い訳ですし…」

そこに今度は日暮里が割り込むようにして会話に入ってきた。

「俺は亮介さんの意見に賛っ成〜!」

「だよなっ! つー訳で、俺はこれでバイナラ〜」

亮介は自分の意見に乗った日暮里を嬉しそうに見るとケータイを閉じて立ち上がり、上機嫌でそう言って、鞄を片手にヒラヒラと手を振った。

「あの、あの、アニキはどうするんスか?」

日暮里が目をパチクリとさせながら航を見詰めると、航は「うーん…」と暫く考え込むように上を見上げた後、言い継いだ。

「俺も今日は帰っかな〜…」

「アニキが帰るなら、俺もバイナラ〜!」

亮介の真似をするように皆に向かって手をヒラヒラとさせる日暮里だったが、その三人を悠太が簡単に帰す筈も無かった。

「ちょっと待ってくれ。新体操は揃わないと意味が無いんだ。一人が出来ても他の皆が出来ないとその技は成立しない…。皆だってそれが分かってるだろ」

帰ろうとすでに出口まで歩いて行っている亮介を引き留めるように悠太は出口まで走っていくと、言葉に熱を込めた。

「…別に今日の練習で全部が決まる訳じゃねーじゃん」

邪魔をするように前に立ちはだかった悠太に、亮介は苛立ち始めたのか、そう顔を歪ませた。

「そりゃそうだけど…」

「じゃー良いっしょ」

亮介はそう言って退かそうと悠太の肩を掴む。

「アニキ、帰りましょっ」

日暮里もそう言って半ば強制的に横になっていた航の腕を引く。

「おい、お前ら本当に新体操やる気あんのかよ。」

暫くは黙って様子を見ていた水沢だったがついに黙っていられなくなったのか、一喝するようにその場から立ち上がった。


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