Ice Empress


□Yellow Rose
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転校初日、東京の人込みにうんざりしていた。と言うより、都会独特の冷たい雰囲気に妙な孤独を感じた。


《東京の人間は冷たい聞いてたけど、ひどいもんやな。》


親の仕事で大阪から東京に引っ越しをしてきて約一ヶ月、実家から通うには遠くて寮に入る事になったのだが、入寮は入学式後なんだそうだ。

仕方なく今日は早起きをして電車を乗り継いできたのだが、最後の乗り換えで反対の電車に乗ってしまったのだ。


《…やってもうた、最悪や。》


これで入学式は確実に遅刻、親が来ない生徒だけの入学式だと言うのが唯一の救いだ。


《仕方あらへん、もう諦めてタコ焼き屋でも探そか?》


ドアにもたれ掛かり、ラケットバックを抱え直すと大きく溜息をついた。


関西から氷帝学園中等部に編入して来た忍足侑士は、早速東京の洗礼を受け、数駅先で乗り換え、うつうつしながら学校に向かったのであった。






‐氷帝学園中庭‐


《ああ、謙也か、東京はつまらんな、うまいタコ焼き屋もあらへんし、散々やわ。》


見事に入学式を遅刻し、HRは出たものの編入初日に堂々と遅刻して来た大物だと散々笑われた。頭に来たが、ここは落ち着いた所を見せようと笑顔でかわした。

入寮の手続きを済ませると、怠そうに中庭に出た。ここ氷帝学園はどこもかしこも派手で、何となく落ち着かない、ベンチを見つけると盛大に座り、大阪に住む仲の良い従兄弟に電話をかける。


《ほんま大阪帰りたいわ、四天宝寺に転入したらあかんか、謙也。》


知らない土地で正直一人きり、友人がいる訳でもない、いくら転校の回数が増えようと最初の居心地の悪さはどこの学校でも味わう羽目になる。

しかし、人間の慣れというものは本当に怖いと思う、転校を繰り返すうちに上手く溶け込み立ち回る技法を身に付けてしまった。

なるべく問題を起こさず、クラスメイトとは仲良く、何を言われても動じない自分が出来上がっていた。


《まぁ、いつもみたいに上手くやればええんや、難しく考える事あらへん。》


口に出す事で自分に言い聞かす、何て事ない、人に合わせるなんて簡単だ。 

そんな事を譫言のように従兄弟に話している傍でやたら騒がしくなる。どこかの部員だろう、目の前を走り去っていく。


『なんかテニスコートでエライ事になってるらしいぞ!』


‥テニスコート?‥

その一言で走り去っていく人だかりに興味が沸いた。従兄弟との電話を切ると、ラケットバックを抱え、人だかりが走っていったテニスコートに自然と足が向いていた。





まさか、そのテニスコートで自分の全てを無くすほど思いを寄せる人物に出会うとは知るよしもなかった。
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