Ice Empress


□向日岳人 HAPPY BIRTHDAY 2010
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恋なんて考えた事もなかった、毎日テニスで飛んだり跳ねたりしてる事が一番楽しかったから。

そんな子供な俺にも生まれて初めて恋人というものが出来た。

けれど、その恋人は常に冷静でそっけなく、俺が傍にいても鬱陶しい顔しかした事がない。

告白られたは俺の方なのにおかしくないか?

引退してしまって同じコートじゃ打ち合う事がなくなってしまったから、今は時間を見つけては俺が誘ってテニスをしてる。

やっぱおかしくねー?

俺ばっか好きみたいじゃん。

そんなのずるい、てか、不公平過ぎだろ?

だから、今日は絶対あいつの方から言わせてやるんだ!

『向日先輩、大好きです』ってさ!




「……一体、何してるんですか?向日先輩」

「おっ!お疲れ、日吉部長」

「……そのちょっと厭味が入った言い方、止めてもらえませんか?」

「嫌味に聞こえるのはお前に後ろめたい事があるからだろ?」

「ありませんよ、そんなもの」

「へーへー、分かりましたよ、ったく、今日が何の日かもコロッと忘れやがって…」


高等部の練習を早く切り上げ、大好きな恋人に所に来た途端この扱い。

本当に俺ってこいつに告白されたのか?

もしかして、都合のいい夢、だったとか?

いやいや、夢と勘違いするとか有り得ない、ジローじゃないんだから。

確かに日吉は忙しい、跡部の後任を受け継いで部長になったはいいが、その役割は予想以上に大きく、てんやわんやなのだ。

だからこそ、俺が癒してやろうと色々してやってんのに、こいつは『邪魔ですからあっちに行っててください』だってよ。

酷いと思わねー?

あいつにとって俺って一体何なんだろうって思うじゃん?

しかも、今日は俺の誕生日、本当は一番にこいつの口から『おめでとう』って聞きたかったのにそれもない。

あぁ、俺って本当にかわいそう。

でも、今日に俺は一味違う。

何が何でも日吉をデートに連れていく、どんな事言われたって。


「……まだ部活終わりませんよ?遅くなりますから先に帰っててください」

「やだね、今日は特別な日なんだ、絶対お前を連れて帰る」

「部長が先に帰れる訳ないでしょう?」


ほら来た、事あるごとに『部長』の印籠を出して俺の言葉を退ける。

しかし、今日はそれも効かない。


「榊監督から伝言、『今日は早めに部活を終わらせ早々に帰る事』、日吉部長様に言えってさ」

「……俺、そんな事聞いてませんよ?」

「そりゃそうだろ、俺が今聞いてきたんだから」


実は今日跡部財閥と榊グループの会合があるらしく、学校を早めに閉めなければならないと職員室で校長と監督が話しているのを聞いてしまったのだ。

そこで伝言役を買って出たのが俺って訳、頭いいだろ?

日吉にも堂々と会えるし、部活も早く終わる、一石二鳥じゃん?


「本当なんですか?嘘とかじゃないんですよね?」


有り得ねーこいつ、俺を嘘吐き扱いしやがった。

俺だって部長に役割がどんなに大事だか良く分かってる、サボらせようとか微塵も考えた事……まぁ、何回かはあるけど、成功した事なんて一回もない。


「本当だって、こんなこと嘘付いても仕方ないだろ?ほらほら、早く片付けて帰ろうぜ!」

「……分かりました、向日さん、ここから動かないで下さいね」


おっ?こいつにも独占欲とかあったのか?

珍しく心配とかしてんのか。


「貴方がうろうろしてると終わるものも終わりませんから」

「何だとっ!このヒヨっこがっ!」

「……頭が弱いと思われますよ、その言い方」

「くっそーーー!」


やっぱこいつに甘い事を望むだけ無駄なんだろうか、何か空しくなってくるぜ。
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