Ice Empress
□宍戸 亮 HAPPY BIRTHDAY 2010
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知ってるよ、アイツが俺に夢中なんて事はさ。
だけどよ、それでも不安は付き物だろ?俺だってたまには不安になる事だってある。
それが表に出てたんだろうな、よりによってあの跡部に知られちまった。
勿論、跡部はもちろん正レギュラーは俺と長太郎が付き合ってるのを知っている。
まぁ、アイツを好きになったのも必然といや必然なんだろうけどな、だってよ、ずっと一緒にいたんだぜ?
しかも、俺の後を犬っころみたく付いてくる奴を邪険になんか出来ない。
絆されちまったんだろうな、あのひたむきさに、俺は努力する奴を馬鹿になんてしないからな。
気が付けば大分長太郎の事を好きになっていた頃、アイツから告白してきた。
『ダブルスだけじゃなく、ずっと俺のパートナーになってくれませんか?』
まるでプロポーズみてーで思わず笑っちまった。
けど、断る理由もなかった、男同士だとかそんなものも関係なかった。
で、今もその関係は続いている、離せなくなったのは俺の方なんだろうけど。
長太郎は変わらない、俺と付き合って変わった事と言えば、何に措いても俺の事を一番に優先させるようになった事だ。
大会も終わって引退をし、部活もばらばらなのに、一緒にいる時間は一向に減らない。
寧ろ増えてる。
休みは一緒にストリートコートに行ったり、部活が終わった後もアイツんちのコートで真っ暗になるまで打ち合ってたりとか。
えっ?テニスしかしてないだって?
…………そんな事、俺に口からは絶対に言わねー。
けど、最近あいつも忙しいのか部活の後、誘われる事が少なくなった。
日吉のサポートが大変なんだろうけど、正直不安だった。
アイツの事だから、俺の誕生日、万が一でも忘れる事なんてないんだろうけど、人は完璧じゃない。
女々しいかもしれないけど、長太郎が傍にいないと落ち着かないのは俺の方なんだ、だから、今日は俺がアイツを夢中にさせてやろうと思う、跡部から聞いた秘策で。
「宍戸さん!お待たせしました!」
「お疲れ、遅かったな」
「部活がきつくて……あっ、すみません、愚痴るつもりなんて…」
「いいんじゃねーの、たまには」
「ありがとうございます!あっ、宍戸さん、お誕生日おめでとうございます!」
こういうところ、本当に可愛いと思う、忘れてるかもなんて思った俺が恥ずかしい。
しかも恥ずかしげもなく大きな声で、こっちが照れる。
負けていられない、今日は俺から行動するって決めてきたんだ。長太郎に先手は取らせない。
「俺んち、今日は誰もいねーから、たまにはうちに来るか?」
俺は滅多に家には呼ばない、家族もいるし、特に兄貴が長太郎の事気に入ってて二人に時間を邪魔される。
男だし今更誕生日を家族で祝ったりしない、しかもタイミング良く家族全員旅行でお出かけ中だ。
「えっ?行っていいんですか?」
長太郎ならこう言うとは思った、こいつ変な所で遠慮深い、そして、その言葉に対していつもの俺だったら『嫌ならいいけど』と言うだろうが、今日は違う。
「いいから来いよ、これは命令だからな」
「は、はい!宍戸さん!」
跡部からもらった秘策、効いてるのか?
あいつ曰く、犬気質の奴には『命令』系が効くらしい。
……て、事は、忍足の奴も犬気質って事か?
同じ犬気質でも忍足の方が性質が悪そうな気もするが、跡部には丁度いいのかもしれない。
とにかく、今日の俺は跡部並みの『俺様』なんだ。
長太郎にはちと悪いがな。