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□Nadesiko -いつも私を愛して- NEW!
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冷たい風が吹き荒れる十二月、俺が生まれた家は父親の事業が失敗し、生活はどん底だった。

徳川家の没落と共に地の底まで落ちた生活は毎日苦痛でしかなかった。

豪邸と呼ばれた家も取られ、家族五人、路頭に迷ってしまうと嘆いていた矢先、見知らぬ人物が家に来た。

見るからに怪しげな下品な男。

ニヤニヤと笑い、汚い歯を見せながら母と何か話している。

子供達がいる事に気づいた母は、慌てて兄と俺を別の部屋へと押し込んだ。

自分達には聞かせられない事なのだろう。

あんなに慌てた母を見るのは初めてだった。


「なぁ、これから俺達、どうなるんだろうな?」

「…俺達で出来る事があれば、それをやればいい。」

「…そうだよな。」


兄と二人、お互い励ましあうように笑いあう。

こんな世の中だ、徳川幕府が堕ち、時代は新しい道を進もうとしている。

どん底まで落ちたのだから、後は這い上がるだけだ。

亮は母が戻ってくるのをひたすら待った。

そして、一時間くらい経った頃、隣の部屋からやけに慌ただしい声が聞こえたかと思うと、乱暴にふすまが開かれた。

驚いて呆然としている二人の兄弟を見て、先程の下品な男が怪しく笑った。


「下の息子はずいぶん綺麗な顔してるじゃねぇか、これなら女として売っても問題ねぇな。」

「止めてください!!息子達だけは勘弁してください!!私がいくらでも働きますからっ!!」


開け放たれたふすまの向こう側で母が土下座をして必死に頼み込んでいる。

亮達は全く理解できず、その光景を呆然と見るしかなかった。

妙な優越感に浸っている男は頭を下げている母の首を踏みつけ、いやらしい笑いを吐きながら畳に唾を吐き捨てる。


「何言ってんだ、テメェみてぇな年増が売れるかってんだよ!!その辺で物乞いでもするんだな!!」

「お願いします!!…その子達は…その子達だけは勘弁してくださいっ!!」

「うるせぇなぁ、うちの若頭が子供を差し出せば借金チャラにしてやるって言ってんだ、笑顔で差し出せって言ってんだよっ!!」


母が踏みつけられる光景を間の渡りにし、亮に届く男の声が遠くなる。

……俺が素直に行けば、借金が無くなる?

……家族と離れて、一人で?

……そうすれば、母も兄も今のような生活はしなくて済むかも知れない?

亮の答えは簡単だった、今幼い自分に出来る事。


「……俺が行けば、もう母さん達の前には現れないのか?」

「あ゛ぁっ?!餓鬼は黙ってろっ!!」


虚ろな思考のまま相手を見ず、無用心に近付くと思いっきり蹴り飛ばされ、壁で背中を打ち、亮は呻いてうずくまった。


「亮っ?!止めてください!!子供に罪は無いんですっ!!」

「はぁ?!何言ってんだ、家族の罪は平等なんだよ!!たとえ、赤ん坊でもなっ!!」


……家族の罪は、全員平等?

……なら、それを一人が背負ったら?


「……母さん、俺が行く……。」

「亮っ!!?」

「ほら、子供の方が聞き分けがいいな、子供が同意してんだ、こいつを連れてくぜ!!」

「亮!!何言ってんだ、俺が…!!」


行く手を制止する兄の腕を優しく振りほどき、蹴り飛ばされた腹を押さえながらゆっくり立ち上がると、男の傍に行き、顔を見上げる。


「……俺が行くから、母を放してください。」

「おぉっ!!別にこんなババァに係わってる暇はねぇんだ、お前を連れていければ後はどうでもいいんだからよっ!!」

「亮!!俺が行くから!!お前は…っ!!」

「……兄貴、母さんを頼んだからな。」


大声で笑う男に肩を抱かれ、兄と母に背を向ける。


「……この不幸は、俺が全部持っていくから、俺の分まで生きてくれよな、二人とも…。」


「亮!!亮っ――――!!!」


悲鳴の様な二人の声を聞き、悔しさに拳を握る。

こんな事しか出来ない自分の無力さが情けない。

もっと自分に力があったなら。

どこに連れて行かれるかも全く分からず、思考を停めたまま、男の影に付いていった。
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