Ice Empress


□Yellow Rose
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‐テニスコート 観覧席‐


《何やおもろい事になっとるやん。》


ざわめくテニスコートには、数人のテニス部員と思われる人間が激しく息を切らせながら倒れている。

そして、対戦をしたと思われる相手はラケットを肩に乗せ、息一つ切らさず悠然と立っている。


《あんなちっこいのにレギュラー総負けかいな、氷帝テニス部も大した事あらへんな。》


全国でもなかなかの実力だと聞いていたのに実はそうでもなかったのかとがっかりした。


《…テニスすら楽しめないんやったら、どうしたらええんかなぁ、俺。》


寮に入ってしまった以上、親の転勤等での転校ももう無い。近くのテニスクラブに入るにしても、正直面倒臭い。尚且つ、中等部だけに寮の門限が早い。運動部等はある程度許されるらしいが、それはきちんと許可をもらわないといけない。

しかし、レギュラー陣を一掃した奴の顔が距離が意外とあり良く見えない、目を細めるも観覧席からでは無理のようだ。


《氷帝の正レギュラーの実力がこの程度か、アーン?》


騒がしいコート上ですら響く、よく通る声。台詞はかなり偉そうなのに、まるで違和感が無い。

日が暮れかかり、オレンジ色の光がコート上の人物を浮き彫りにするように照らす。

金に近い栗色の髪が太陽の光でキラキラ光り、意志の強さを表すような切れ長の瞳と口許、いかにも生意気そうな顔をしている。


《ハーフかいな、ほっそい身体して、ようあれであれだけの球打てんで。》


正レギュラーを倒し、部長になると宣言した跡部(周りが叫んでいた)が二人がかりで挑戦している一年に打ったあの強烈なサーブ、あの細い身体から繰り出されているとは本当に思えない。


《…あいつはおもろいな、あいつがおるんやったら退屈せんで済むかも。》


自分も相当実力があると自負している為、強い奴を見ると腕が疼いてくる、対戦してみたくなる。大阪に居る時も、私設クラブを覗いては勝手に試合を申し込んだりもした。そして、たいてい負ける事はなかった。


《久々に本気でやれそうな相手、見つけたで。》


二対一の試合も、あっさり勝利した跡部は、既に王様気取り、ああいったお坊ちゃんを負かしたら相当気持ちがいいだろう。

浮足立つ気持ちを抑えながら、ラケットを取り出し、観覧席を下りる。


《何やこの部活、ほんまに一年に支配されとるわ。》


まるで今さっきこの場に着いたかのような言い方をし、軽く挑発する。この場にお前が立っている事がおかしいと言わんばかりに。


《なにか文句があるみてぇじゃねぇか、そこの眼鏡。》


近くで見るとますます意志の強そうな顔立ちが目立つ、それに加え吸い込まれそうな青い瞳。

今まで自分の周りにはいないタイプの人間、しかもこれだけテニスが強い、興味が沸かない訳が無い。


《俺もテニス部に入るんや、一年で部長になるやつの実力、知りたいんや。》


始めは本当に単なる興味本位、純粋にテニスの実力に対しての。

しかし、この試合の後から、感情が変化する。興味から、もっと深い、恋情に。
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