過去拍手文

□雪の女王にも勝る
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にゅっと首を伸ばし、自分の瞳をジッと疑わしげに見つめる慈郎を、始めのうちは無視していたのだが。
練習試合のラリーを追って、自分が顔の向きを変える度に追い掛けて来て、チラチラと視界の端を動くので、跡部も遂に溜め息を吐いた。
「さっきから何だ」
「悪魔の鏡のカケラが入ってんじゃねーかって」
「悪魔の鏡?」
「雪の女王の」
少しの間俊巡して、子どもの頃聞いた童話を思い出す。
「くだらねぇな」
「だって跡部、目ぇ蒼いじゃん」
「これは生まれつきだ」
「カケラが目に入るとね、心臓が凍って、意地悪な人間になっちゃうんだよー」
「俺様がいつお前に意地悪したってんだ?アーン?」
「イブに部活入れることないじゃん!」
今年のクリスマスイブは土曜日。
普段なら休みだが、完全に二年生が中心となった今、少しでも強化しておこうと組んだスケジュールなのだが。
「ブンちゃんと初めてのクリスマスなのに!!」
段々と慈郎の言わんとしていることがわかって、跡部も早々に話を切り上げる。
「クリスマスに逢わねぇぐらいで死にゃあしねぇだろ」
「やだー!俺は死ーぬーのー!跡部の人殺C!!」
「ギャーギャーうるせえ!」
「氷の王様とか言っちゃって、跡部の氷って心が冷たいって意味だよね!雪の女王の方がまだ優Cよ!」
架空の人物を引き合いにだされ、カチンと来た。
「“永遠”をスウェーデン語で書いてみな」
「何でスウェーデン語なの!無理に決まってんじゃん!」
「雪の女王の城はラップランドの近くなんだろ。ラップランドの国名はスウェーデン語だ」
「何それ、知識自慢?跡部のナルシスト!」
「書けねぇんなら諦めろ」
雪の女王がカイに解放する条件として出したのと、同じ条件。
カイは自力では出来なかった。
当然慈郎も。
「…ったく。氷のキングの方が上だってのを教えてやるよ」
「うるさいよ、セレブ」
さっきからポンポン、よく悪態を思い付くものだ。
眉間をヒクヒク引きつらせながら、それでも笑顔を取り繕う。
「イブの部活は午前中だけだ」
「それって…」
「午後から丸井と逢うなり、泊まるなり好きにしろ」
「泊まるって、跡部ってばヤラC!」
「はあ!?」
コイツの辞書には感謝という言葉がないのだろうか。
「言っとくが不純行為は一切認めねぇぞ」
「うわ、小姑みたい」
「なっ!!」
「あ、俺次試合だー。跡部見ててね!俺跡部の為に頑張っちゃうから!」
言うなりラケットも持たずにダダダッと駆け出して行く。
「おい、樺地」
「ウス」
「ジローはいつからああなったんだ?丸井と付き合い初めてからか?」
「……最初から、です」
「……届けてやれ」
「ウス」
樺地に慈郎のラケットを渡すと、そのまま跡部は頭を抱えた。


E.

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