過去拍手文

□恋路交差点
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『恋路交差点』


いつものように眠るでもなく、覚醒して大騒ぎするでもなく、ただぼんやりとソファに座る慈郎の様子に岳人は着替える手を止めた。
「何だよ、ジロー。お前明日デートだから今日はソッコー帰って寝るって言ってなかったか?」
「んー…」
「オイ」
生返事に軽く小突くと、前に向けていた視線がようやく岳人に移った。
「岳人はさ、何で忍足を選んだの?」
「ハア?」
「俺たち幼稚園の時から一緒で、家も近所だけど全然好きなタイプ違うよね」
相手が男だって言うのは一緒だけど。と続けられた言葉は岳人の耳をすり抜けて行く。
「宍戸は鳳だし、滝は樺地でさ」
「……」
「あんだけ毎日一緒にいて、それなのにみんな別々の相手を選んでさ、別々にデートしてんの」
「もしかして寂しいって言いてぇのか?」
「じゃなくて不思議じゃん?みんな男を選んでんのに、誰も幼馴染みとくっついてねえんだよ?」
「初恋が幼馴染みって決まりはねえだろ」
「俺絶対ぇ岳人は宍戸が好きなんだと思ってた」
「っな!」
「宍戸が俺のことフォローしてくれると怒るんだもん」
「ちげーよ!それはお前をフォローして甘やかすのは、お前の為になんねえって言ってんの!つーかお前のフォローは俺だってしてただろ。そう言うお前こそ宍戸のこと好きだったんじゃねえの?いっつも甘やかしてくれるから」
「A違うよー。俺は宍戸のこと兄ちゃんみたいだなって思ってた」
「俺だってそーだよ」
「岳人よりは俺が兄ちゃんだけど」
「どこが!どう考えても俺の方が面倒見てやってるだろ!!」
「誕生日俺の方が早ぇもん」
「それ言ったらお前四人の中で一番早いだろ!」
「滝はさー、いっつもニコニコしながらみんなのバランスとってくれんの」
「ケンカになったら真っ先に止めに来るよな。っつかアイツがケンカするとこ見たことねぇかも」
「兄ちゃんって言うより姉ちゃんって感じ?」
「だな」
「で、岳人は弟ね」
「だから何でだよ!」
「背ぇ小っちぇから」
「お前俺と2センチしか違わねぇだろ!!」
地団太を踏む岳人を見て、慈郎は吹き出した。
「早く宍戸と滝来ねぇかな」
「お前…」
「なーんちゃって」
ケンカというか軽い言い合いになるのは自分と岳人で、宍戸は呆れながら、滝はちょっと困りながら仲裁に入るのだ。
今ここには口ゲンカ相手はいるけれど、止めに入る二人はいない。それぞれ自分の恋人と肩を並べて部室を出て行った。
「さーて、俺も帰ろっかなー」
「お前なあ!」
「俺ねぇ、岳人も好きだよ」
「!!」
「宍戸も滝もみんな好き!ゆーじょーって意味だけど」
だから、それぞれ違う相手を見つけて良かったって思ったんだ。
友情が昔のまま、バランスの取れた心地良いままであり続けるから。
「忍足とばっかじゃなくて、たまには俺とも遊んでよね!」
「そんなん…」
当たり前だ、バーカ。
誰よりも先に恋人を見つけた慈郎の背中に、こっそりと悪態を吐いた。


E.

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