過去拍手文

□銀河鉄道ノ
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キッカケはほんの些細なことで、理由なんて特にない。
しいて挙げるなら夏だから。
「おい、今から出て来いよ!駆け落ちしようぜぃ!!」
真夏の真夜中、たったそれだけの電話。
常識じゃ考えられないような時間に、常識じゃ考えられないような提案。
それでも、俺を突き動かすには充分だった。
すっかり寝静まっている家を、そろりそろりと抜け出して。
後は一目散に駅へと走る、走る。
部活でもこんなにスPド出したことないかも。


二人の家から中間地点の駅で落ち合って、ありったけのお金で行ける一番遠くまでの切符を買った。
「寝ても良いぜ?着いたら起こしてやる」
「うん、もーちょっとしたら寝る」
俺たちは無力で、駆け落ちなんて常識じゃ考えられなくって・・・。
だけど、気持ちは昂ぶってて無敵だ!
だいじょーぶ、二人ならなんとかなるっしょ!!
「何だっけ?男の子二人が、電車でお星さまを旅する話」
「ああ『銀河鉄道の夜』?」
「そう、何だかあの話みてぇだね!」
「アレは駆け落ちじゃねぇだろぃ」
「Aー?『どこまでも一緒に行こう』って言うのは駆け落ちじゃねーの?」
「似てるけど違ぇよ。あの二人は友達で、俺らは恋人」
「そっかー」
それじゃあ状況が全然違う。
そもそも俺はみんなの幸を願えるほどEヤツじゃねぇC、その為に蠍の火で灼かれるなんてマジ勘弁!!
俺は俺の幸せの為に生きてて、だからこそ周りの人や後先なんて考えずに家を飛び出してしまってるんだ。
明日だって部活はあるC、父ちゃんたちは心配するんだろーな…。
「お前寝むそーだぞ、寝ろ」
「うん、そーするー」
重くなった瞼を素直に下ろす。
だいじょーぶ、後悔はしてねぇ。
あーでもあの物語みてぇに、目を開けると夢だった!なんてオチだったらやだなぁ…。
最後の力を振り絞って、隣に座るカムパネルラだかジョバンニだかの袖を掴んだ。
俺の知らない間に、消えてしまわないように。


E.

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