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□時がゆけば幼い君も
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「は?」
同学年の中で一番ちっこくて、自分の欲望(特に食欲)に忠実で、常に自信満々でお子ちゃまだったあの丸井が。
「お前さん、今何つった?」
「だーかーらー、恋人が出来たっつっただろぃ」
再び俺の思考が停止したのを良いことに、ヤツはサッと俺の手元からノートを奪った。


ことの始まりは他愛もないことで、前もって本日当たることになっていた数学の宿題を写させてくれと、丸井が頼んで来たとこからじゃ。
こういったやり取りは今まで何度もあったけん、別段呆れたりはせんが俺に何のメリットもないことに気付いた。
よってほんの気紛れ…あわ良くば、詐欺師として丸井の弱みの一つや二つ、握れんもんかと思ったのは認めるナリ。
で、俺がノートを貸す代わりに出した条件
「おまんの秘密を教えんしゃい」
言うと案の定、これ以上ないってくらい嫌そうな顔になった。
俺がたまに…いやしょっちゅう丸井をからかって遊ぶんは、ほんに表情がよう変わって面白いからやと本人は気付いちょらん。
柳生やと途中でからかわれてることに気付いて、ヒステリー起こすからの。からかうんにも神経使うぜよ。
「ピヨ。嫌なら別に良いんじゃけど?俺が当たるワケじゃなか」
「嫌だなんて言ってねぇだろぃ!!」
「だったら早よ、言いんしゃい」
尚も渋るところを見ると、こりゃよっぽどデカイ秘密と見える。
それでもノートを諦めんのは、俺が数学得意じゃけぇ。
ああ、得意科目一つでこんな娯楽にあり付けるとは、俺の方がよっぽど天才的ダニ。
なんて余裕こいとったら
「俺……恋人が出来た」
一瞬自分の耳を疑ったのは、無理もなかろ。


信じられん。
部内では完全弟ポジションで、年下の赤也とも張り合ったりする丸井なのに。
「仁王、さっきから遠い目して俺のこと見てっけど、気持ち悪ぃから止めてくんない?」
「時が経つのは早いのぅ」
「答えになってねーぞ」
人を年寄り気分にさせる程の爆弾落としときながら、吐いたことで吹っ切れたのか、けろりと写し終わったノートを差し出して来る。
「サンキュー!助かった〜」
「今度紹介しんしゃい」
「あ?」
「おまんの恋人」
「絶対ぇ嫌だ!!」
「紹介してくれるんやったら、五限の理科も貸しちゃるぜよ」
「マジで!?」
苦手科目多いの。
餌にしといてアレなんじゃが、コイツの受験が心配になって来たナリ。
「……。絶対ぇ変なことすんなよ」
「ほう?」
「それが約束出来るんなら、紹介してやる」
コイツ恋人を売ったのぅ、たかが理科のノートの為に。
こんな子供っぽいヤツに恋人なんて早過ぎんか?…まあ子供は子供なりに精一杯目力使って睨んで来るけん、今のところは
「心配しなさんな、俺は丸井の味方だっちゃ」
「お前は信用出来ねーよ!!」
喚きながらも、しっかりノートは持って行く。
「…ガキっぽいのぉ」
「お前に言われたくねぇ!!」
「ま、恋人のおかげで少しは成長出来れば良いんじゃが?」
「余計なお世話!!」
ああ、数学ほど理科は得意じゃなかけん間違っとったらスマン。っちゅうのを言い忘れたの。


E.

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