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□最後の審判
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始まった頃は永遠のように思えていたのに、過ぎてみればあっという間で。
楽しかった思い出も、己を捧げた大会も今や遠い過去。
後にはただただ、山積みの宿題が残った。


「だからそこは係り結びだっつってんだろぃ」
「うー古語なんてわかんなE〜」
八月二十九日。
例年なら来る新学期に備えて、ジャッカルの宿題を写しているところだ。
それが今年は
「宿題の古典だけがどーしても終わんねぇの!ブンちゃん国語得意でしょ!お願E、教えてー!!」
という慈郎の懇願により勉強会と相成った。
慈郎がわからない所を教えつつ、自分はジャッカルの答案を写す…ことは簡単だが、目の前にいるのは恋人だ。
恋人が自力で頑張ろうとしているのに、自分だけラクをするなんて、そんな格好悪い真似出来るか。
よってブン太もつい後回しにしていた理科や数学を、なんとか自力で頑張ろうとしていた。
のだが。
一問解き終わる度に慈郎から質問を受け、なかなか先に進まない。
これでは勉強会というより、個人授業だ。
自分にはなんのメリットもないではないか。
もちろん慈郎に悪気がないのもわかっている。
眠る気配を見せず、必死に問題集と向き合っているのだから。
しかし、散々説明したのに選んだ答えがことごとく間違っている。
ただの記号問題ですら。
「ブー。この場合は愛おしいじゃなくて、可哀想って意味だからアじゃなくてイでした〜」
「なんで同じ単語なのに全然違う意味があんの!?」
「知らねぇよ。でも文脈見りゃわかんだろぃ」
「読んでも何書いてあんのかサッパリ」
「はい、じゃあ罰ゲーム」
間髪入れずに、慈郎のTシャツを剥ぎ取る。
「ちょっと何すんの!」
「何って罰ゲーム?一問間違える度に脱いでけ」
「何それー!!」
「だってお前の宿題の為に俺の宿題が全然進まねぇもん。こんぐらいの楽しみがなきゃ不公平だろぃ」
「って俺あともうズボンとパンツしか着てねぇんだけど!」
「んー、残念だったな。せめてボタン付きのシャツだったら、一問につきボタン一個にしてやったのによ」
「せめて二問で一回にして」
「ごちゃごちゃ言ってねぇで、サッサと次行け」
「ま、負けらんねぇ」


貞操の危機を感じ奮闘するも、二問だけの免除などあってないようなもの。
あっさりと慈郎は身ぐるみを剥がれた。
そこからどうするのかと訝しげにブン太を見遣ると、宿題を続けるよう顎をしゃくられた。
首を傾げながら問題と向かいあい、答えを出し、間違えた。
「ひあ!ブンちゃん!!」
「んー?」
後ろから抱きしめられるように身体をくっつけ、伸びて来た手は慈郎の弱い所を刺激してくる。
「これ、じゃ…集中出来な、い…」
「いーんじゃん?終わってからまた教えてやるよ」
「罰ゲームなし?」
「して欲しい?」
「ヤダよ。宿題終わんねぇじゃん!」
「じゃーちゃんと教えてやるから、今はこっちに集中しろぃ」
「オーボーだー」
言いながらも慈郎は笑っていて、ブン太の方に向き直る。
今日が二十九日で良かった。
慈郎とイチャつけて、慈郎の宿題も救ってやれる。
自分の分に関しては、明日にでもジャッカルを呼びつけよう。
「何考えてんの〜?」
「今日が三十一日じゃなくて良かったよ」
絶望的な最終日はまだ先だ。


E.

あなや、いとほし

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