short

□後悔先に立たす
1ページ/1ページ

「今年は挑戦者として全国へ乗り込む…むろん王座を奪回する為に!!」
「イエッサー!!」
渾身の力で叫ぶ。
「青学!全国でお前たちを叩きのめしてやる!」
絶対ぇ、絶対ぇに借りを返す!
「全国は甘くないぞ!!せめてそれまで勝ち進んでくる事だな!」
真田の言葉に合わせて、余裕たっぷりの笑顔を青学に向けてやる。
…けど、これは虚勢も混じってる。
所詮俺たちは中学生で、やっぱり負けんのは悔しかった。
どんなに次は勝てる自信があっても。
だからいつもより言葉少なに、それぞれ帰り支度をしてる。
いつもは騒がしい赤也でさえ、黙り込んでやがる。
かく言う俺も、ジャッカルに八つ当たりする気にもなれねぇ。
真田はいつになく険しい顔をして…ああ、幸村の手術は成功したんかな?俺たちは負けちまったけど。
病院からの連絡は受けてるはずなのに、真田からは俺たちに何の説明もなくて、ただ黙々と先頭を歩く。
俺たちは俺たちで聞くに聞けず、誰も言葉を交わすことなく、ゾロゾロと後に続く。
それでも何となく、幸村の病院に行くんだろうなってことはわかった。
ちゃんと報告しなきゃいけねーし。成功してればお祝いも言わねーと。
黙ってたら、どんどん暗い方へ考えてしまいそうで、何とか明るい話題を考えてた俺の視界に、金色が映った。
こっちを見て、ちょっと泣きそうな顔して突っ立ってる。
「悪ぃ、俺ちょっと遅れて行くわ。すぐ追い付くから」
ボソッとジャッカルにそれだけ告げて、俺は金髪の方へ歩き出す。
注目を集めんのも嫌だから、手を引いて試合が行われてなかったコートへ向かう。


「ブンちゃん、試合見てたよ」
「おう。サンキュー。天才的だっただろぃ?」
「うん!マジスゲーよ!!妙技も見れたC、俺綱渡りが好きだな」
「そっか……けど、格好悪いとこも見せちまったな」
「そんなことない!」
慈郎の強い口調に驚いた。目にはいっぱい涙溜めてるクセして。
「ブンちゃんは試合に勝ってたじゃん!最後の最後に守備に回って、ゲーム守ったじゃん!!」
「けど、団体戦っつーのは連帯責任なんだぜ?」
「そんなこと知ってるよ!青学が強いことも俺…俺たちを倒したんだから、強くなきゃ困るんだけど、でもっ!立海はスッゲー強くて、スッゲーカッコ良かったよ!!」
「何でお前が泣くんだよ」
「Eの!ブンちゃんが泣けないから、俺が代わりに泣いとく」
「何言ってんだよ…」
呆れたフリしてジローを抱きしめた。
ボロボロ零れる涙は、俺のジャージの胸元を湿らす。
「ブンちゃんは、いつでも余裕でカッコ良くて、男らしいから負けたくらいで泣いたりしないの」
「そりゃどーも」
「俺はちょっとくらいのワガママはきーて貰えるから、我慢しなくてEんだ」
「得な性格だな」
「だから、我慢しなきゃいけないブンちゃんの代わりに、俺が泣くの」
一向に泣き止む気配のないジローの頭を撫でてやる。フワフワした感触が気持ち良い。
「俺だってね、青学に負けた時悔しかったよ!」
「楽しそうだったけどな」
「うん、あん時は楽Cのが勝ってた!負けてもE試合が出来たなって、でも」
「でも?」
「全部の試合が終わってから、もう全国行けないってわかったら、堪んなくなった」
「……」
「楽Cのも大事だけど、勝つのも大事だよね。もっと早くに気付かなきゃいけなかったんだ」
「お前だって負けるつもりで試合してたワケじゃねーだろぃ」
呟いた俺の言葉に、ジローは一際大きくしゃくり上げて、後は鼻をすすっている。
その音も徐々に小さくなって、しばらくしてようやく顔を上げた。
「立海は負けちゃったけど、全国大会に行けるんだよね?」
「ああ」
「だから、絶対ぇ俺たちの仇を取ってね!」
「俺たちって氷帝の?」
「氷帝と、今日の立海の分」
泣き腫らした目で笑う他校生は、最高に可愛くて、誰よりも強い影響力を持っている。
だから俺は、いつも余裕でカッコ良くて男らしい丸井ブン太の顔で
「イエッサー」
と答えた。


E.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ