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□連想ティータイム
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ケーキ屋に入って喫茶コーナーに並んで座る。窓際の席はいつの間にか二人のお決まりになった。
メニューを開いてから俺が散々悩むのもいつものこと。一個じゃ足んねぇから三つは頼むんだけど、それにしたってケーキの種類はすんげえ豊富。
これがバイキングなら迷わず気になるもん全部取るけど、一皿三百円くらいの普通の喫茶店じゃ無理じゃん?
こないだ食べたガナッシュ美味かったよなー、あーでも新作のレアチーズにも挑戦してぇし、期間限定の苺のムースも気になる!!


チラッとメニュー越しにジローを確認すれば、既に決まったようでニコニコしながら俺を見ていた。
一皿しか食わねえクセにいつも即決だよな、っていうか。
「お前まさか今日も」
「うん、ロールケーキにしたよ」
ジローはいっつもロールケーキを頼む。特にここのはお気に入りだ。生クリームの中に細かくカットされたフルーツが入っているのが良いらしい。
そして俺の頼んだケーキを一口ずつ味見する。別に構わねぇけど、なんだかなぁ・・・。
「いっつも同じもんで飽きねぇの?」
「全然!!」
「だって同じ味だぜ?」
俺ガムだって気分によって味変えてんのに。
「だってブンちゃんとのデートが毎回同じコースでも、俺全然飽きねえもん」
痛いとこ突いて来るなコイツ。喜んでるみてぇだけど。
「多分それと一緒だよ」
「そんなもんかね」
「あれ、ブンちゃんは俺とのデートに飽きちゃった?」
さっきまでヘラヘラ笑ってたクセに、急に不安そうな顔しやがって。ホント感情表現豊かだよな。
「そんなワケねぇだろぃ!」
「良かったー」
再び笑顔になったジローの顔を縦に割るように音を立てて勢いよくメニューを閉じる。
「決めた」
「今日は早いね」
喋ってたワリにいつもより早ぇなんて、相当俺が悩んでる時間は長ぇんだな。
いっつも辛抱強く待ってくれるコイツを尊敬。
「お決まりですか?」
「ロールケーキと〜ホットの紅茶、ミルクで!」
「俺も飲み物は同じで、ケーキはシュークリーム」
「ケーキセット二点、以上でよろしいですか?」
「はい」
店員のお姉さんが戻って行くのを見送ってたら、ジローが不思議そうな顔してこっち見てた。
「何だよ?」
「今日はケーキ一個しか頼まないんだなと思って」
「たまにはな」
「お腹痛Eとか?」
腹壊しててもケーキ食うヤツだと思われてんのか俺は。
「ちげーよ。気分気分」
「ならEけど」
「ほら、さっきお前いつも同じデートコースでも飽きないって言っただろぃ?」
「うん」
「同じデートコースでも、ちょっと変化つけたら新鮮になるかと思って」
「なるほど!さっすがブンちゃん!!」
天才的?なんて冗談言ってる間にケーキセットが運ばれて来た。
シュークリームだけに絞った理由はもう一つあんだけど・・・。
「見る度に思ってたんだけど〜、ロールケーキってブンちゃんみたいだよね」
は?俺ロールケーキ!?
「どこがだよ?」
「まんまるなとことかー、ふんわり柔らかいとことか」
「……」
遠巻きにデブって言ってる?まだギリギリぽっちゃりに留まってんだけど!!
「色んなフルーツってか、技持ってるとことかそっくり!!」
コイツはいつもそんなことを考えながらロールケーキ食ってたのかよ。
呆れるっていうか、感心するっていうか・・・。
カットフルーツの苺だけ全部ほじくり出して皿の隅に寄せてから、ケーキの外端から巻き方に沿って切っては食べる。当然時々皿も回転する。
お世辞にも行儀が良いとは言えねぇけど、これも何かこだわりあんだろうな。
俺もシュークリームの形を崩さないように慎重にフォークを突き刺す。
ビンゴ!やっぱシュークリームはカスタードだよな。
「苺はねー、ブンちゃんの髪の色だからいっつも最後に食べるんだー」
ブッ。
唐突にそんなこと言われて、思わず飲んでた紅茶を吹き出した。
「汚E!!」
「ゲホッ、お前が変なこと言うからだろうが!」
「A〜変かなぁ?」
「変だろぃ!何だよその今俺はお前を食ってんだぜ発言」
「そんなつもりで言ったんじゃないCー」
「じゃあどんなつもりだよ?」
「どんな時でもブンちゃんのこと考えてるよ!って意味」
何でコイツはこんなに素直なんだ。恥ずかしい。それにドギマギしてる俺はもっと恥ずかしい。
「目の前に本物いんだから、ケーキにまで俺を求めるな」
「はーい!ってかブンちゃんのシュークリーム一口ちょーだい!!」
「絶対やらねぇ」
「Aーケチ」
「ケチで結構」
シュークリームがお前みてえだから頼んだとか、カスタードがジローの髪の色だから好きなんて、死んでも言ってやらねぇ!!


E.

(これからは窓際、シュークリームが俺の定番)

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