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□荒療治
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すっかり風邪も完治して、前回流れてしまったデートをいざ決行しようとした矢先、慈郎から電話が掛かり
「うーブンちゃんのがうつったみたE〜。熱も出ちゃったC今日は無理だよー、ごめんねぇ」
熱のせいか涙混じりの慈郎の声を聞くと、残念と思うより先にバツの悪さが込み上げて来て
「なら、約束通り見舞いに行ってやる」
と返していた。


途中で桃缶を購入し、慈郎宅に向かうと慈郎の母親に
「わざわざ良かったのに〜。うつしちゃったら申し訳ないわ〜」
と言われてますます罪悪感が募った。
適当に挨拶して部屋のドアを開けるなり
「うあぁぁぁブンちゃん!ホントに来てくれたー!!」
と泣かれた。
ベッドの横に腰掛けると、氷嚢を載せた慈郎の頭を撫でてやる。
「泣くこたねぇだろぃ」
「だってぇ、ブンちゃん呆れてなE?」
「ねぇよ、つーかそもそも俺のせいだし…」
「良かったぁ、嫌われたかと思ったぁ」
グスグス鼻を啜る慈郎にティッシュを手渡す。
チーンと鼻をかんで丸められたティッシュを受け取り、ゴミ箱に捨てる。
「風邪引いたってことはお前バカじゃなかったんだなぁ」
「まだ言うのー、違うってば!!」
「健康管理は徹底されてなかったんだな」
「それはブンちゃんがチューなんかするから」
「その後ベッドに潜り込んで来たのはどこのどいつだよ?」
「う…それは、だって」
慈郎が顔まで引き上げた布団を手で掴み、氷嚢を退けて自分の額をくっつける。
「ブンちゃん!!」
「思ってたほど熱はねぇな。これならすぐに治んじゃねぇか」
潤んだ瞳を、イタズラっぽく見つめ返し、額ではなく唇をつけようとした時
「慈郎〜、起きてるの〜?」
襖が開く前に間一髪でパッと慈郎から身体を離すと、慈郎の母親がお盆に桃を入れた器を載せて立っていた。
「丸井君がわざわざ桃缶買って来てくれたのよ」
「ありがとう!」
屈託なく笑われたが、ブン太としてはいささか不完全燃焼だ。
「食べられそうなら、せっかくだし頂きなさい」
「食べる〜」
「薬もちゃんと飲みなさいよ」
それだけ言うと器を置いて、母親は出ていった。
しかしタイミングを逃した以上、再びキスを仕掛けるわけにも行かず
「覚えててくれたんだね!」
「まあ、一応」
「食べさせてよ」
「・・・ったく」
慈郎にねだられるまま、切り分けられた桃を一切れフォークに刺して慈郎の口元に持っていく。
「白桃だね」
「黄桃の方が良かった?」
「風邪の時は黄桃なんだけど、白桃も好き!ってかブンちゃんが買って来てくれたってだけでちょー嬉C!」
「ふーん。俺ん家はバニラアイスだけどな」
「A、アイスなんて栄養ないじゃん」
「風邪引くと咽喉痛くなんだろぃ、アイスの方が食べやすいんだよ」
「納得」
結局ブン太の分も慈郎に譲り、薬を飲む段階で
「口移しがE」
「またうつったらヤダ」
「さっきはチューしようとしたクセに」
「うるせーよ」
ブツブツ言いながら上体を起こし、慈郎が薬を飲み込んだのを見計らってブン太は口を開く。
「なぁ、風邪が早く治る方法知ってっか?」
「何々!教えて!」
「汗をいっぱいかきゃ良いんだぜぃ」
「へえ、じゃあスッゲェあったかくして寝たらEんかな?」
「そんなことしなくても」
ギラリとブン太の瞳が光り、慈郎が首を傾げている間に布団をはいで自分もベッドの中に入る。
「俺があっためてやるよ!」
「ちょ、やめ!」
風邪で五感は鈍っている筈なのに、何故かそこだけはいつもより感度が増していて、服の上から撫でられただけで仰け反ってしまう。
叫ぼうとした慈郎の口を片手で塞ぐ。
「下にお母さんたちいんだろぃ?ああ、お客さんもいるかもしんねぇな」
「イジワル」
「治るためだって」
「ふ、あ」
風邪のダルさでそれ以上反抗することも出来ず、慈郎はブン太にされるがままにする。
確かに体温は上昇しているし、恥ずかしさにさえ目を瞑れば、気持ち良いのだし・・・。
毛布を口に入れ、もうすぐ来るであろう絶頂に備えた。


E.

(風邪治ってもしばらくは口きいてやんない)

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