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□特効薬
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「はい、あーん」
慈郎が差し出したレンゲを口に入れ、雑炊を飲み込む。
ブン太がレンゲから口を離すと、慈郎はまた椀から雑炊を掬ってフウフウと息を吹きかけてはブン太に向かって差し出す。
自分で食べられると言っても
「Eから」
と押し切られた。
まったく、病人にまで駄々をこねるとはどういう神経をしているのだ。
いろいろと思うところはあるが、熱と詰まった鼻のせいで頭がボーッとする。どうでも良い。
もともと風邪で空腹感が鈍り、鼻詰まりは味覚を狂わせる。せっかく母が作ってくれた雑炊もほとんど味がしなかった。
「もういらねぇ・・・」
ブン太がそう言うと慈郎は目を丸くした。
「え、ブンちゃんがご飯残すなんてそーとー重症だね」
「馬鹿は風邪を引かねぇから良いよな」
「バカじゃない!日頃のケンコー管理がてってーされてるんですー」
「喚くな、頭に響く」
「ごめんごめん。じゃあ薬飲んで」
はい、と慈郎の掌に乗る錠剤と慈郎の顔を見比べて。
「苦いからヤダ」
「もーそんなこと言ってたら治んないじゃん!」
「じゃあ、お前が甘くしろぃ」
言うが早いか、ブン太は慈郎の口に錠剤を放り込み、自らの唇で蓋をする。
「んう」
慈郎の口内で絡まりあう舌の間で転がる錠剤。混ざり合った唾液の中でそれは甘く・・・。
ゴクリと咽喉を鳴らして、ブン太は唾液と錠剤を飲み込み慈郎を解放する。
「うつったらどうしてくれんの!」
「健康管理が徹底されてんだろぃ?うつるわけねぇって」
「…とか良いながらバカって思ってるんでしょ」
「あれ、バレた?」
「心配してお見舞いに来てあげたのに!」
頬を膨らませて背を向ける慈郎の頭をブン太はそっと撫でた。
「ジロー」
「…風邪こじらせて死んじゃA」
「ほんとに俺が死んでも良いの?」
「ヤダ!」
途端にこちらを振り向き、自分にしがみ付いて来る。
「デートキャンセルしてごめん」
「……」
「次は絶対守るからさ」
「…そん時俺が風邪引いたら、お見舞い来てくれる?」
「おー。雑炊でも何でも作ってやるよ」
「桃缶忘れないでね」
「わかった」
「なら許す」
そう言って何をするのかと思えば、ブン太のベッドに潜り込んで来て。
「だから今日はお昼寝デート」
布団の中で手を繋ぐ。起きた時には熱が下がっていますように。


E.

(がぁーがぁー)
(病人より寝るの早ぇんだ・・・)

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