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□吐息信号
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U−17の合宿中。
今までと違う練習メニューで疲れているのか、思ったよりも試合に対して緊張していたのか。
泥沼のように深い眠りに引きずり込まれたのに、しばらくして意識だけが浮上した。依然身体は沼に浸かったまま。
指先さえ動かそうとしても微動だにせず、途方に暮れているうちに
(…!! 息が!!)
呼吸する度に吸える空気の量が細くなっていく。声を上げようとしてもくぐもった呻きにしかならない。
(誰か、助けて!)
必死に祈るが安らかな寝息が聞こえるだけで、誰かが起きる気配はない。
(も、もうダメ・・・)
「ジロー?」
慈郎がまさに意識を失いかけた瞬間、掛け布団がめくられ肺に空気が流れて来た。
「ブンちゃん・・・」
「お前なぁ、顔まで布団被って寝るなよ」
呆れ顔で慈郎に布団を掛け直し、ブン太は自分の布団に戻ろうと踵を返す。
「ま、待って!」
とっさにブン太のパジャマの端を掴んだ。どうやら身体も元に戻ったらしい。
「何だよ」
「俺が眠るまで、一緒に寝てよ」
「幼稚園児かお前は」
「だって金縛りにあったんだもん!息できなくなるC、死ぬかと思った〜」
それまで抑えていた声が、思わず涙声に変わった。
半泣きの慈郎を見てブン太は溜め息を吐き、慈郎の布団に潜り込んだ。
「わかったから、泣くな」
「うぅ、ありがとう」


溜まった涙を拭い、静かに瞼を閉じる。
隣にブン太がいる安心感からか、すぐに眠気が降りて来た。
今度は穏やかに眠れそうだと、夢現に感じていたのだが。
「・・・。ブンちゃん、何か手が変なとこに当たってんだよね」
「気のせいだろぃ。早く寝ろよ」
そう言いながらもブン太の掌は慈郎の性器を服の上から優しく撫でる。
「気のせいじゃないC、これじゃ寝らんないよ!」
「俺の貴重な睡眠時間割いてやってんだから、こんくらいやらせろぃ!」
「恋人のピンチなんだから無償で助けてもバチは当たんないと思う〜」
「あ、そ」
ピタッと撫でていた手が止まり、ほぅと慈郎が息を吐いた瞬間。
「んあ!」
ブン太の手が下着の中に突っ込まれ直接それを握られた。
「はい静かにー。誰か起きたらどうすんの?」
真っ赤になって震える慈郎が見たのは、極上の笑みを湛えた恋人の顔。
「ブンちゃんの、悪魔」
悪態を吐いたら付け根を刺激された。
必死に自分のパジャマの裾を噛み、声を抑える。
金縛りで気を失った方がマシだったかもしれない。
果てる寸前に慈郎は思った。


翌日の練習はやはり身体がだるかった。
繋がってはいないから、腰が痛いわけではないが。
あの後交代でブン太にも同じことをしたのだが、向こうはいつもと変わらなさそうだ。
「そういや何で俺の異変に気づいたの」
行為の最中すぐにティッシュが出て来たことからしておかしい。
たまたま水飲み場に二人っきりになった為、慈郎は声を掛けた。
「ん?ああ、寝る前にお前の顔にキスしとこうかと思って近づいてったら、お前唸ってたから」
俺に感謝しろよ!というブン太の言葉は聞き流して。
バッシャア!!
逆さにした蛇口に親指を当てると水は見事にブン太に向かって、ブン太のユニフォームはびしょ濡れだ。特に半ズボンの前ら辺。
「ジロー、テメー!」
「変態に、制裁」
ヒラヒラと手を振って慈郎は水飲み場を後にした。
「お前、今晩覚えとけよ!」
というブン太の声が追いかけて来たが、聞こえないフリをした。


E.

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