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最近丸井が自分にたかって来ることが少なくなった。
以前なら部活が終われば即座に甘い物を買う金を自分にせびりに来たのに。
おそらく恋人が出来たのが影響しているのだろう。
デートでの娯楽・飲食代を他人からせびった金で払うなど格好悪いことこの上ない。
妙な所で格好をつけたがるのだ。
しかし紹介された丸井の恋人というのが男だったのには正直驚かされた。それもライバル校の生徒とは。
クルクルした金色の髪と眠そうな目、柔らかなカーブを描いた頬が特徴的だった。
ずっと子供っぽいと思っていた丸井よりも更に幼い印象を受けた。
なるほど、この組み合わせならば丸井がしっかりするようになったのも頷ける。
恋が人を成長させるのは良いことだ。
丸井にとっても、自分の財布にとっても。


恋人を紹介されて数日後、ジャッカルは丸井に訊ねてみた。
「確かお前のタイプって物くれる人じゃなかったか?」
たまに聞かされるデートの内容を聞く限り、どちらかと言えば丸井の方が世話を焼いている気がする。
「まぁそうだったんだけどよ、貰うばっかが愛じゃねえだろぃ」
「今頃気づいたのかよ」
「アイツといると貰う以上に与えたいって思えて来んだよなー」
「例えば何を」
「そりゃやっぱ愛ってヤツ?」
自分で言ってキヒヒと笑う。ある程度予想していたとは言え、ヤレヤレという気分が湧いて来るのは止められない。
「物くれる人が好きな俺が、あげたいって思うのスゲーと思わねぇ?」
「奇跡に近いな」
「だろぃ!だからアイツは絶対ぇ運命の人だと思ってんだ」
「そうか・・・」
大切にしてやれよと返すと、当ったり前だろぃと即答された。
「しかし好みってのはわかんねぇモンだよな。お前も今は色白の巨乳が好きとか言ってるけどさ」
「巨乳じゃなくて、グラマーだ」
「同じことだろぃ。でも実際蓋開けてみたら、色黒の貧乳の人と付き合ったりしてな!」
言われて想像してみるが、色黒の貧乳とはまるで
「女版のオレじゃねぇか」
「じゃージャッカルはジャッカルと付き合えよ」
「無茶言うな」
冗談冗談と笑う姿を見ると怒る気も失せる。
いつものことだ、丸井が自分をネタに性質の悪い冗談を言うのは。
「冗談ついでに、結構お前タイプだったって言ったらどうする?」
「お前、急に何を…」
「だから冗談だって。でもお前いっつも俺に奢ってくれたり、ノート貸してくれたりしてるじゃん。そう考えると、タイプだったかもなって」
「それはお前が強引に押し切っただけで、俺の好意は全く含まれていない」
やっぱそうか、と頷きながらも悲しそうな素振りは一切ない。
「もっと早く男同士でもイケるってわかってたら、俺絶対ぇお前と付き合ってたね」
「オイ、オレにも選ぶ権利が」
「ねえよ」
カラカラ笑って、丸井は立ち上がった。
「そろそろ行くか。今日こそ仁王たちを出し抜いてやろうぜ」
「ああ」
男同士でも恋に落ちると教えることも、好みが変えることも自分は出来なかったけれど。
これで良い、とジャッカルは思う。
最高の恋人にはなれないが、最高の相棒は自分しかいない・・・筈だ。
そしていつか自分にも丸井のように想える人が現れればいいなと思う。
出来れば色白でグラマー、そして女子。


E.

(仁王、お前の詐欺は見切ったぜ!・・・ジャッカルが)
(オレかよ!)

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